世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2562
世界経済評論IMPACT No.2562

「小さな一歩だが,大きな飛躍につながる」:東京ガスが横浜テクノステーションでメタネーションを開始

橘川武郎

(国際大学 副学長・大学院国際経営学研究科 教授)

2022.06.06

 2022年の3月28日,東京ガスの横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)を見学する機会を得た。同地でメタネーションの実証試験が始まって,5日後のことである。

 毎時12.5N㎥の合成メタンを製造するメタネーション装置は日立造船製で,金属の枠組みと配管が目立つ2階建て屋上付きの構造物だ。たたずまいはコンパクトだが,実際に合成メタンを製造している現場に立つと,感慨もひとしおだ。

 メタネーション装置の屋上にあがると,装置をとりまく幅30m,奥行き70mの敷地全体が見渡せる。メタネーション装置を取り囲むように,制御室,容積150㎥の水素タンク,5トンの液化炭酸ガスタンク,ガス消費機器建屋が配置され,小ぶりだが合成メタンを収容するタンクもある。まもなく,水電解装置や太陽光発電パネルも設置されるそうだ。このように,東京ガスが横浜テクノステーションで始めたメタネーション実証試験の大きな特徴は,サプライチェーン全体を視野に入れた取組みとなっている点にある。

 水素を生成するために電気分解を行う水については,将来的には,道路をはさんで対面に位置する横浜市環境創造局の北部下水道センターから再生水(下水処理した水をろ過した水)の供給を受ける予定だ。二酸化炭素についても,同センターから送られてくる消化ガス(下水汚泥を処理する過程で発生するバイオガス)のなかから取り出す。近隣の横浜市資源循環局の鶴見工場から受け取るごみ焼却排ガスも,二酸化炭素の供給源となる。

 東京ガスがメタネーションに取り組むにあたってとくに力を入れるのは,地域との連携だ。横浜テクノステーションで始まったメタネーション実証試験でも,この考え方は徹底されている。実証試験に先立って,今年の1月,東京ガスが横浜市と連携協定を締結したのも,その表れである。

 横浜テクノステーションは,メタネーションにかかわるサプライチェーンに沿って,さまざまな研究開発を行っている。

 再生可能エネルギーの高度利用のために取り組んでいるのは,材料の寿命評価技術や非破壊検査技術,発電量予測技術などの開発である。太陽光発電や風力発電に活かされるこれらの技術は,生成過程で二酸化炭素を排出しない「グリーン水素」の生産に貢献する。

 メタネーションが大規模化すると,「グリーン水素」だけでは足らなくなり,生成過程で二酸化炭素を排出するものの,それを回収して地下に貯留するCCS(二酸化炭素回収・貯留)によってカーボンフリー化した「ブルー水素」も必要になる。「ブルー水素」を生産するためにはCCSの効率を高めることが重要であるが,横浜テクノステーションは,そのための技術開発にも取り組んでいる。二酸化炭素を微細気泡化し効率的に地下貯留することを可能にするマイクロバブル技術の開発・実用化が,それである。

 水電解に関して横浜テクノステーションが力を入れるのは,セル・スタックの革新的生産技術の確立だ。セル・スタックそのものの新規開発とともに,部材を薄膜化し高速でセル・スタックを連続的に製造することにも取り組んでいる。これらの技術開発が成果をあげれば,「グリーン水素」の生産コストは,大幅に低減する。

 さらに横浜テクノステーションは,水素や合成メタンの利活用の高度化にも取り組む。その一環として進めているのが,高効率SOFC(固体酸化物形燃料電池)の開発だ。高効率SOFCは,発電の排気ガスから燃料再生器を使って燃料を濃縮し,それをさらに発電用に利用するため,5kWの小型システムでありながら,65%もの発電効率を実現する。これは,最新鋭の大型LNG(液化天然ガス)コンバインドサイクル発電所に匹敵する発電効率だ。

 見学の最後に,別室において,メタネーション装置で製造した合成メタンに着火していただいた。その炎は,見慣れた都市ガスの炎と変わらず,やさしく元気良かった。

 東京ガスが横浜テクノステーションで始めたメタネーションは,まだ規模は小さいし,既存技術のサバティエ反応(CO2+4H2→CH4+2H2O)を使ったものである。しかし,それは,二重の意味で,「未来への懸け橋」となる。

 まず規模について言えば,東京ガスは,毎時12.5N㎥のメタネーション装置による小規模実証に続いて,2020年代半ばには,毎時約400~500N㎥の装置による中規模実証を国内で始める予定である。そして30年には,「グリーン水素」が低廉に調達できる海外で毎時約2万N㎥の大規模実証を開始し,そこで生産される合成メタンを輸入して,供給する都市ガス販売量(発電分を除く)の1%,約8000万㎥を合成メタンで充当する方針を明らかにしている。つまり,横浜テクノステーションの小規模装置は,「ホップ・ステップ・ジャンプ」の「ホップ」に該当するものなのだ。

 次に使用技術についてみれば,東京ガスは,サバティエ反応の先にあるものを見据えている。電気化学デバイスと触媒を用い効率性にすぐれるハイブリッドサバティエ,電気化学デバイスを使い設備コストを大幅に低減するPEM(固体高分子膜)CO2還元,微生物を用い低コスト化・大規模化を容易にするバイオリアクターなどの革新的技術が,そのターゲットである。

 「小さな一歩だが,大きな飛躍につながる」。早春の横浜での昼下がり,人類として初めて月面に足跡を記したニール・アームストロングの言葉を思い出した。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2562.html)

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