世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2561
世界経済評論IMPACT No.2561

ロシアからの原油・石油製品・天然ガスの禁輸と世界のエネルギー需給の課題

武石礼司

(東京国際大学 特命教授)

2022.06.06

 ロシアのウクライナ侵攻は,欧州諸国に政治決断を迫る深刻な問題となっている。G7諸国およびその他の欧州の国々は,対ロシアの経済制裁として,ロシア産の天然ガス,原油,石油製品,および石炭の禁輸を進めつつある。日本もこの動きに加わっており,ロシアからの化石燃料輸入が止まる方向で政策を実行しつつある。

 欧州諸国と比べると日本のロシアからのエネルギー輸入の依存度は低くなっており,2020年で石油が4.1%,天然ガスが8.0%となっている。ただし,日本企業を個別に見ると,ガス会社および商社などで,対ロ経済制裁の実施による影響が大きくなるところが生じる。

 ウクライナでの戦争は,コロナの蔓延が世界的に一段落しつつあると感じられる中で生じた出来事である。

 2020年初め以降,すでに2年以上にわたり,世界各国の人々は,それぞれの国の政府が信頼の置ける政策を打ち,納得できる説明を政府がすることをひたすら期待しつつ,移動を制限されてきた。居住する国の対コロナ政策次第で,生命の維持に関わる重大事態が簡単に生じてしまうことを充分に思い知らされるに至った。

 医療と食料,それにエネルギーは,いずれも不足すると,即座に,人々の日々の生活に影響が及び,パニックも生じ得る。エネルギーは,電力供給が止まれば,停電し,交通信号は止まり,通信,冷暖房も照明も停止し,人々は何も出来なくなり,生命の危機と直結する。

 日本のエネルギー自給率は水力,再生可能エネルギー,それに原子力も合わせても13%に止まっており,他はすべて海外からの化石燃料の輸入に依存していて極めて脆弱である。

 現行の日本国憲法上,自衛隊は軍隊と呼ぶことができないと理解されており,食料自給率もカロリー換算で38%に止まり,またエネルギーに至っては13%の自給率であることは,極めて危険で脆弱な状態にあることを意味している。

 ウクライナの状況から広く理解されるようになったのは,世界の常識は今や転換しつつあり,自国の主権を維持し,自国の国民を守ることに政府は集中する必要が生じているという点である。グローバリズムが今後もますます進展して,国境のない世界が実現するなどとの楽観論は,最早成り立たなくなっていると言わざるを得ない。

 食料問題を見ると明らかなように,各国は自国民を守るべく交渉を行っているが,日本は安全保障に対する幅広い目配りが不足している。例えば,遺伝子組み替え食品の消費量は日本がすでに世界一となったと言われている(鈴木宜弘『食の戦争 米国の罠に落ちる日本』,2013)。日本が,輸入量の過半を依存する米国内では,遺伝子組み替え小麦を規制しつつ,海外向けには自由に輸出させ,かつ,「遺伝子組み替えでない」との記述を日本国内産の農産物や食品に関しては,行わないようにとの圧力をかけることが行われている(前掲書)。

 この食品の例でも明らかなように,自給率が低いままでは自国および自国民の利益や健康を守ることはできない。エネルギー分野でも同じように,エネルギー資源を確保し,エネルギー供給を維持するためには,多様な種類のエネルギー源を確保し,エネルギーの輸入先も多様化させていく必要がある。

 欧州におけるロシアに対するエネルギー禁輸に関しても,2022年5月の段階では,ロシアからのガス輸入に対するドル払いはやめたものの,ルーブル払いをドイツは続けている。世界は,自国の国益を何よりも優先する時代に入ってきていると言える。

 また,インドの例を見ると明らかなように,政策が一貫しており,ロシアからの石油とガスの購入を控えるようにとの欧米諸国からの要請に対しては,拒否する姿勢を貫いている。14億人に達するインドの人々がエネルギー不足で混乱させることを政府が断固拒否することは,インドの国益に叶っていると言える。

 以上のドイツとインドの例からわかるように,原理原則に一途に従うのではなく,自国民の保護・生命・財産が最も大事であるとして政策を考えていくことは,全ての事象において必要だと言わねばならない。ウクライナでの戦争をみるとわかるように,リスクが高まっている現在のような状況においては,例えば,「脱炭素」を進めるようにとの要請がパリ協定により求められても,出来ることとできないことを考えつつ,政策を決めて行く必要がある。

 例えば,世界のCO2排出量を削減するために効果的な方法は,インド,インドネシア等の石炭火力に依存する国に,日本が協力して高効率石炭火力発電設備の導入を進めることである。石炭火力を簡単には捨て去ることができない発展途上国は多くあり,こうした諸国と共同での高効率で省エネ,低環境負荷のエネルギー消費のための取り組みスキームを形成し,深化していくことが期待される。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2561.html)

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