世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2551
世界経済評論IMPACT No.2551

米ASEAN特別サミット:ASEANへの関与を再保証

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2022.05.30

 米国ASEAN特別サミットが2022年5月12−13日にワシントンで開催され,ASEANから招待されなかったミャンマーを除く9か国の首脳(フィリピンは外相が参加)とASEAN事務総長が参加した。米国とASEANの関係は,1977年に米国がASEANの対話国となったことから始まっており,今年は45周年となる。オバマ政権時代の2016年にサニーランドで米ASEAN特別サミットを開催しており,6年ぶりに2度目の米本土での特別サミットとなった。

 米ASEAN特別サミットの目的は,トランプ政権下で米国に対する信頼が低下したASEANに対する米国の関与を再保証することであり,米国のインド太平洋戦略とインド太平洋に関するASEANアウトルックという2つのインド太平洋構想を補完することにより米国とASEANの新時代を開始することを明らかにした(注1)。

 米国は2016年秋の米ASEANサミットでASEANとの関係を「強化されたパートナーシップ(Enhanced Partnership)」から「戦略的パートナーシップ(Strategic Partnership)」に格上げしたが,11月の第10回米ASEANサミットで「包括的戦略パートナーシップ(Comprehensive Strategic Partnership)」に再度格上げすることが共同声明(注2)で発表された。ASEANは中国,豪州と包括的戦略パートナーシップ関係にある。

8分野で協力を促進

 共同声明では,①COVID-19との戦い,②経済関係と連結性の強化,③海洋協力の推進,④人と人の連結性,⑤サブリージョナルな開発の推進,⑥技術強化とイノベーション推進,⑦気候変動への取組み,⑧平和の維持と信頼構築の8分野での主要な協力プログラムが例示された。2016年の米ASEAN特別サミットでは,米国のASEAN協力の旗艦プログラムである米ASEANコネクトが発表されているが,こうした新たな大型のイニシアチブの発表はなく,大半はASEAN米国戦略的パートナーシップを実施するための行動計画2021-2025やAOIPへの協力プログラムで実施されているプログラムで新味に乏しい内容だった。ウクライナ問題は平和の維持と信頼構築で取り上げられたが,ロシアへの非難はなかった。

 経済関係と連結性の強化では,次の経済協力プログラムが示されている。①ASEAN米国貿易投資枠組み取決め(TIFA),米ASEAN経済関与強化イニシアチブ(E3)作業計画などによる強力で衡平,包摂的な経済成長と持続可能な開発の推進,②質が高く透明,低炭素で気候変動に対応できるインフラへの投資,③貿易投資の促進と医療機器・食料・農産品・ハイテク製品など重要物資の強靭なグローバルサプライチェーンと継ぎ目のない地域の連結性,④輸送の連結性における協力,⑤地域とグローバルなガバナンスの強化と協力,⑥サイバーセキュリテイ・デジタルリテラシーの改善強化。インド太平洋経済枠組み(IPEF)は非公式に議論はされたが言及はなかった(注3)。

1億5000万ドルの資金協力

 米国は,2021年の米ASEANサミットで衛生,気候,科学とイノベーション,貿易円滑化などでの協力のために1億200万ドルの資金協力を発表したが,今回の特別サミットでは気候変動,持続的開発,包摂的な繁栄,教育へのアクセス支援,健康の安全保障などを目的とする協力のために1億5000万ドルの資金協力を発表した(注4)。内訳はクリーンエネルギー関連インフラに4000万ドル(脱炭素化,電力システム,エネルギー貿易,クリーンエネルギー技術の普及など),海洋協力に6000万ドル(沿岸警備隊による訓練など能力醸成,違法漁業への対応などAOIPの海洋協力の推進),デジタル分野に600万ドル(ASEANデジタル統合枠組行動計画支援など),英語教育(300万ドル),COVID-19,結核など空気感染する病気対策(1000万ドル)などである。中国は昨年15億ドルの資金協力を表明しており,米国の協力が見劣りするのは明らかである。

 バイデン大統領は,トランプ政権下で空席となっていたASEAN駐在大使として,国家安全保障会議(NSC)で大統領副補佐官を務めるヨハンネス・エイブラハム氏を指名した。同氏はバイデン大統領の政権移行チームを統括するなど大統領に近い人物であり,ASEAN側から歓迎された。

[注]
  • (1)The White House, Fact Sheet: U.S-ASEAN Special Summit in Washington, DC. May 12,2022.
  • (2)The White House, ASEAN-U.S. Special Summit 2022, Joint Vision Statement, May 13,2022.
  • (3)5月23日に立ち上げられたIPEFには,ASEANからブルネイ,インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ,ベトナムの7か国が参加した。
  • (4)The White House, Fact Sheet: U.S-ASEAN Special Summit in Washington, DC. May 12,2022.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2551.html)

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