世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2457
世界経済評論IMPACT No.2457

カーボンフリー火力へ向けてアンモニア混焼始まる:JERA碧南石炭火力発電所見学記

橘川武郎

(国際大学副学長・大学院国際経営学研究科 教授 )

2022.03.14

 昨年の年の瀬,日本最大の石炭火力であるJERAの碧南(へきなん)火力発電所(愛知県)を訪れる機会があった。訪問の目的は,その2ヵ月前の2021年10月に始まった同発電所5号機(超々臨界圧,出力100万kW)での燃料アンモニアの小規模利用試験を見学することである。

 JERAとIHIは,2年後の24年度には碧南火力発電所4号機において,アンモニア20%混焼の実証試験を予定している。今回の小規模利用試験のねらいは,材質の異なるバーナを用いて実証試験用バーナの開発に必要な条件を確認することにある。小規模試験を5号機で行い,実証試験を4号機で実施するのは,定期検査のタイミングの兼ね合いと,両機が同一設計であることとによるそうだ。

 見学に先立ち5号機ボイラー建屋の屋上に立つと,衣浦(きぬうら)湾と三河湾をバックに展開する碧南火力発電所の全容を俯瞰することができた。そこで4号機で行う実証試験のための工事計画について説明を受けたが,それは,①北端の貯炭場の横に位置する外航船揚炭桟橋にアンモニア専用の荷役装置を設置する,②南端の資材置き場を活用してアンモニアタンクと気化器を新設する,③その両者を結ぶ形で発電所の南北を貫くアンモニアパイプラインを敷設する,④途中にある4号機のボイラーで改造されたバーナを使って実証試験を行う,というものであった。

 5号機の建屋内では,実際に2本のバーナノズルを使って金属材料の耐久性評価を行っている様子を目の当たりにすることができた。建屋の外では,5号機にアンモニアガスを引き込むための細いパイプが接合されていた。そのガスは,すでに脱硝装置で使っているものを転用する。脱硝プロセスでアンモニアに関する知見を蓄積してきたことが,今回の混焼計画の重要な前提条件となっているのだ。

 「小規模利用試験」と言うだけあって,5号機で行われていた作業は,けっして大がかりのものではなかった。しかし,それは,大きな夢へつながる初めの一歩のように感じられた。

 ここで,このような表現を用いたのは,碧南火力発電所でのアンモニア混焼の背景には,壮大な文脈が存在するからである。

 カーボンニュートラルのためには,太陽光や風力のような変動電源を多用しなければならない。変動電源にはバックアップの仕組みが不可欠であるが,蓄電池はまだコストが高いし,原料面で中国に大きく依存するという問題点もある。したがってバックアップ役として火力発電が登場することになるが,二酸化炭素を排出する従来型の火力発電ではカーボンニュートラルに逆行してしまう。そこで,燃料にアンモニアや水素を用いて二酸化炭素を排出しない,あるいはCCUS(二酸化炭素回収・利用,貯留)を付して排出する二酸化炭素を削減する「カーボンフリー火力」が必要になる。つまり,カーボンフリー火力なくしてカーボンニュートラルはありえないわけである。

 このカーボンフリー火力という概念は,日本最大のそして世界有数の火力発電会社であるJERAが20年10月に「ゼロエミッション2050」のビジョンを発表することによって,一挙に現実味をもつようになった。ゲームチェンジャーとなったJERAが,ビジョン実現の突破口として位置づけるのが,碧南火力発電所でのアンモニア混焼である。

 石炭火力には強い逆風が吹くにもかかわらず,碧南の現場で出会った人々は,みな使命感に燃え意気軒昂としていた。それを可能にしたのは,ここで述べたような文脈である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2457.html)

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