世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2444
世界経済評論IMPACT No.2444

無限のコーチング,有限のティーチング

菅原秀幸

(北海学園大学国際ビジネス論 教授)

2022.03.07

主体的に考えて,主体的に行動する

 変化のスピードが速い今日,「主体的に考えて,主体的に行動する」ことが何より求められている。それに最も効果的なのが,コーチングである。例えば,すでに2013年4月,ビル・ゲイツ氏はTEDに登壇し,「だれにもコーチが必要だ」とプレゼンしている。

 教師がもっている有限の知識を,一方的に与えるというティーチングは,もはや時代遅れになりつつある。ほとんどの知識は,検索すると手に入るからだ。大切なのは,知識をもっていることではなくなっている。知識を活かして行動する力が重要になっている。

 事実,こんな学生の声がSNSにあがっている。「一方的に話し続けられる講義なら,ウィキペディアを使って自分で調べた方がいい。時間もかからないし,説明も分かりやすい」,「検索すると分かるような内容を,わざわざ講義で聞きたくない」,「90分間の講義内容を,ネットで調べて30分ですべて理解できた。ネットで代替のできる教師はいらない」

 考えて欲しい。このような声を耳にするとき,あなたが,教師なら,どう思うだろうか。教師の役割は,ティーチングではなく,コーチングに代わってきてはいないだろうか。ティーチングはネットに任せて,教師の役割は,コーチングで学生/生徒/児童の心に火をつけ,主体的に行動する力を育むことといえるだろう。

 3賢人の言葉に耳を傾けてみよう。

 「人は,他人から言われたことには従いたくないのです。自分で気づいたことには,喜んで従います。人を動かすために,命令してはいけません。自分で気づかせるのです」(デール・カーネギー氏)

 「命令を質問の形に変えただけで,気持ちよく受け入れてもらえます。さらに,その人の創造性をも開花させます」(トーマス・エジソン氏)

 「過去のリーダーの仕事は命じることだが,これからのリーダーの仕事では,問うことが重要になる」(ピーター・ドラッカー博士)

 これらを実現できるのは,コーチングだ。ティーチングでは,立ちいかない。

 世界的ベストセラー『やり抜く力 グリット』の著者,ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授は,やり抜く力をもっている人たちを分析し,共通する特徴の一つとして,「コーチ・メンターがついている」を挙げている。

 自分一人で頑張れる人は,だれもいない。コーチと共に結果を出すというのが,常識になってきている。コーチングは,ビジネス界ではかなり浸透してきているが,教育界でも活かされたなら,大きな効果をあげるだろう。本稿は,その検証結果である。

125人の学生がコーチングを受ける

 2021年10月~11月の2カ月間にわたって,専門的なトレーニングを積んだ8名のコーチから,筆者の担当する講義を履修する125名の学生が,課題の一環として,コーチングを受けた。つまり,単位の取得を望む学生には,コーチングを受けることが求められた。終了後のアンケートには,「自分から望んだわけではないけれども」といった表現の記述も認められ,単位取得のために仕方なく,という姿勢でコーチングに臨んだ学生も相当数いたことが予想される。

 こうして得られた回答に対して,AIテキストマイニングによる分析を実施。コーチングの研究において,100名を超える学生を対象として効果を検証しようとした試みは,他に類をみない。本研究の際立った特徴といえるだろう。

 1対1のオーソドックスな60分間のコーチング・セッションをもった。事前に,計測する指標を定めることなく,自由記述の分析から,コーチングの効果を把握しようとする試みである。

 セッション終了後,105人から自由記述の回答を得たので,AIテキストマイニング分析を試み,コーチングの効果が,どのような言葉で表されるのかを明らかにしようとした。

 その結果,スコア分析で最も大きく表されたのは,「行動」であった。ここから学生が,コーチングの到達点である「行動」に向かう姿勢が見て取れる。

 続いて出現頻度でみると,「できる」が最も大きく示された。自分もできるという自己効力感に,コーチングが好ましい作用を及ぼしたと考えられる。

 実際の分析結果と,学生の声は,ここから。⇒ https://bit.ly/3o5gFDu

コーチングは学生に効果が出る

 パーソナル・コーチングの父といわれるトマス・レナード氏は,「コーチングは,最も欲しい結果を明確にし,自分一人では絶対に行くことができない速さで,ゴールに向かうことを助ける」と言う。

 まさに今回,8人のコーチは,この役割の一端を担ったといえるだろう。本来,コーチングは,1クール(2週間に1回,全6回3か月)が標準で,継続してセッションをもつことによって,望ましい結果に到達できる。今回は,一学生にセッション1回であったために,小さな変化を生み出すにとどまっているかもしれない。

 コーチングの成功には,自分から望んで受ける姿勢が40%の影響をもつという研究結果もある。つまり,コーチングを受ける者の姿勢がとても大切である。しかし,今回は講義の一環として実施したために,自ら望んで受けてはいない。それでも,思考が固まっていなく成長の途上にある学生の場合,1回のセッションでも,結果が出ることが分かった。

 家庭,学校,職場,いたるところで「主体性」がますますキーワードになる中で,それを育む効果的な手法は,コーチングだ。有限の知識を教えるティーチング,無限の可能性を開かせるコーチング。

 *コーチングは学ぶものではなく,実践するもの。世界標準のコーチングを体験するなら,ここから。⇒https://bit.ly/3ziN6TT

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2444.html)

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