世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2438
世界経済評論IMPACT No.2438

アクション・リサーチ・エデュケーションのすすめ

村中 均

(常磐大学 准教授)

2022.02.28

 日本では,特に1990年代後半以降から,産学(産学官)連携の取り組みが,推進されてきている。1998年「大学等技術移転促進法」,1999年「産業活力再生特別措置法」といった本格的な産学連携の嚆矢となった法律が導入された後の産学連携をキーワードとし,日本経済新聞と日経MJと日経産業新聞の記事数を調査してみると,2000年35件,2005年210件,2010年75件,2015年194件,2020年には136件と推移している。ちなみにそれらより以前の1995年では2件であった。5年毎のデータから,産学連携が一般的なものとなってきたといえよう。社会の問題は益々複雑化しており,問題解決に向けて,関係者が協力し,組織の垣根を越えて行われるオープンイノベーションが求められており,それを具現化する産学連携の意義は計り知れない。

 本稿では,以前の筆者の論稿(村中均「産学連携PBLと大学教育段階説-価値共創パラダイム」『日本経営システム学会全国研究発表大会講演論文集』2014年,52,pp.226-229)を参考にしながら,産学の「学」すなわち大学の視点から,具体的には大学が持つ研究教育の機能に着目し,産学連携が大学(この場合,日本の大学)に与えるインパクトについて,今一度,概念的に分析していくこととする。

 大学の研究教育の基本形は,教員が研究した知識・理論を学生に教授するという関係で,教員が知識・理論という価値を創造し,それを学生に提供するという,いわば価値提供型といえる。教員による一方向的な講義形式の授業が,その代表例である。このことをプロセスで捉えてみると,現実(現場)を研究し,知識・理論として体系化し,それを教育するという,現実→研究→教育ということになる。

 2010年代以降の特に顕著な動きは,大学では,学生の主体的な学び,すなわちアクティブ・ラーニングが重視され,社会に対して有用な即戦力となる人材育成を期待され,実学志向が高まり,産学連携が科目の中でプロジェクトとして実施されるようになってきたことである。プロジェクトによる学びのことをPBL(Project Based Learning)と呼ぶ。PBLとは,問題を発見し解決する,問題解決型学習のことであり,学生は過去の自分の学びを基礎とし,それを応用し発展させる形で主体的に学ぶこととなる。

 上記のことは,大学における研究教育の在り様が変化することを意味する。この場合,「産」すなわち産業界という現実を研究し,知識・理論として体系化し,それを教育するということのみならず,学生の主体的な学び,すなわち教育によっても知識・理論が生み出され,さらにそれが現実(産業界)へと適用され実践されることになる。このことは,教員のみならず学生からも知識・理論という価値が創造される,価値共創型の研究教育といえる。現実と研究と教育の間で相互作用(さらにフィードバック・ループ)が生じており,現実⇄研究⇄教育というプロセスとして捉えることができる。現実⇄研究という,現場(現実)の問題を発見し,その解決方法を研究で明らかにし,それを現場に実践するといった相互作用(さらにフィードバック・ループ)を伴うプロセスのことをアクション・リサーチ(Action Research)というが,先に説明した現実⇄研究⇄教育というプロセスは,アクション・リサーチ・エデュケーション(Action Research and Education)と呼ぶことができよう。

 大学の中で産学連携は,実践性のある研究教育として,さらに学生の主体性を育むものとして,非常に重要なものであると認識されており,一層推進されるものとなろう。新型コロナウイルス感染症の拡大によって,講義科目だけでなく,それまで難しいと考えられていたPBLの科目にもオンラインが導入され,授業として実施されてきている。今後,産学連携のプロジェクトは,オンラインの利用によって,時間と空間の制約を受けることがなくなり,その実施形態は多様化していくはずである。

 文系理系問わず,現実と研究と教育を統合するものとしての大学というのが,未来の大学の大きな存在意義となってくる可能性は非常に高いと考えられる。その場合,大学は,プロジェクトの推進機構としての重要性が増し,その中の教員というのは,アクション・リサーチ・エデュケーションを産学連携のプロジェクトで体現する,いわばプロジェクト・マネジャーという側面が大きくなってくるであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2438.html)

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