世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
政治家はなぜ原子力を避けるのか
(国際大学 副学長・大学院国際経営学研究科 教授)
2022.01.17
昨年10月に行われた総選挙でも,原子力問題は争点となることがなかった。例えば,九州電力・川内原子力発電所の地元である鹿児島県で多くの読者をもつ『南日本新聞』は,総選挙2日前の記事で,「川内原発がある鹿児島3区の候補者は原発の延長問題に触れようとせず,争点化を避けている」,と書いている。
2011年の東京電力・福島第一原子力発電所事故が起きてから衆議院議員選挙が4度,参議院議員選挙が3度実施された。そのいずれにおいても,原子力問題が主要な争点となることはなかった。原子力関連のテーマが中心的な争点となって選挙戦が展開されたのは,14年の東京都知事選挙,16年・18年の新潟県知事選挙,21年の寿都町長選挙など,ごく限られた数の首長選挙のみであった。
なぜ政治家は,選挙になると,原子力問題に深入りすることを避けるのか。答えは簡単である。原子力については,強く推進を唱えても,声高に反対を叫んでも,どちらの場合も,票を減らすことはあっても増やすことはないからである。
政府や経済産業省の関係者がしばしばそう主張するように「国民の信頼回復が進んでいない」と判断して,推進派が原子力を争点からはずすのは,ある程度理解できる。ここで興味深いのは,反対派も,原子力を主要な争点として取り上げることを避ける点である。
16年の鹿児島県知事選挙の際,元テレビ朝日記者の三反園訓氏は,心情的には原子力発電に批判的な意見をもっていたにもかかわらず,その点をあまり表に出さずに当選をはたした。しかし,選挙で反原発の方針を明示しなかったために,知事就任後も原子力政策についてあいまいな姿勢をとり続けることになり,自民党と公明党の推薦を受けて再選をめざした20年の知事選挙で敗退した(昨年の総選挙で三反園氏は,「保守系無所属」として鹿児島2区から立候補し,当選した)。
通常の選挙ではないが,21年の自民党総裁選挙に立候補した河野太郎氏も,勝利を優先させるために,持論である原子力への批判的姿勢をトーンダウンした。それでも,核燃料サイクルに対するきびしい姿勢は堅持したため,それが一因となって,1回目の投票でトップの座を譲るなど,「予想外の大敗」を喫することになった。
これらの事例が示唆するように,反対派陣営にとっても,選挙で原子力問題を正面から取り上げることは,得策ではない。原子力をめぐる国論が真二つに分かれている現実をふまえれば,推進派も反対派も選挙においては原子力にふれないことが,政治家としての「賢い選択」なのである。
こうして,国の未来を決める重要な国政選挙において,原子力政策の進化をもたらすような真摯な論戦が展開されることはなくなった。そして,これからもないであろう。
21年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画は,「可能な限り原発依存度を低減する」と述べる一方で,「原子力については,(中略)必要な規模を持続的に活用していく」と記している。原子力発電所のリプレース・新増設には言及しない一方で,30年度の電源構成見通しにおける原子力比率を20~22%のまま維持している。これでは,国が描く原子力の将来像がまるで見えてこない。選挙では主要な論点からはずされ,政策決定過程では「バランス重視」の問題先送りの対象にされる。日本の原子力が陥った闇は深く,出口の手がかりさえ見えない。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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