世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2365
世界経済評論IMPACT No.2365

巨大経済圏構想「一帯一路」とウィンウィン関係

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2021.12.13

 最近の国際報道で中国のケースでは,コメントする中国の報道官は女性よりも男性が多くなり,しかも海外の批判に対して強硬な反論が目立つかと感じる。米中対立が激しくなり,習近平体制が3期目に向かう中で,国家戦略「一帯一路」や人権問題に国際的な非難が増えている背景があろう。コメントの多くは事実否定に内政干渉と反論し,中には戦狼外交といわれても仕方がない攻撃的なものも少なくない。一方で,習国家主席自身最近「尊敬される中国」を国民に訴えていると伝えられ,大国としての在り方が問われているように思う。

「一帯一路」はなぜ国際的に非難されるのか

 習近平国家主席が力を入れる巨大経済圏構想は,中国から欧州に至る通称「陸上シルクロード」と太平洋からインド洋を経てアフリカに至る「海上シルクロード」から成る。かつてONE BELT ONE ROAD(略称OBOR),現在はBELT AND ROAD INITIATIVE (BRI)と言われ,海外のインフラ建設を通じて経済発展や連結性を高める中国の重要な国家戦略である。BRIの沿線国・地域は基軸のインフラ整備で経済社会が発展し,中国は経済的政治的勢力の拡大を目指せる。そして,中国は相手国・地域ともに恩恵が及ぶウィンウィンのパートナーシップ関係ができると宣伝してきた。

 インフラは経済社会の基盤で必須であるものの建設には総じて大きな資金を要し,多くの途上国ではこれを賄いきれない。しかし,中国の協力でインフラが整えられれば,利便性や連結性が高まり発展の可能性が高まる。また,陸上シルクロードが完成すれば,中国から欧州への貨物輸送は海上輸送に比べて時間的に3分の1に,コストは5分の1になるといったメリットが大きい。こうした期待や恩恵の反面,恩恵が双方に及ぶウィンウィンの関係でなく中国に偏重するウィン関係であると,関係は悪化し国際的な問題にもなる。これまでの経緯では次ぎのようなBRI案件が問題視され批難されている。

 非難が集中する案件は,中国が供与する資金返済で相手国・地域が債務負担能力を超え「債務のワナ」に陥るプロジェクトで,多くの場合資金供与や返済条件が明らかでなく透明性を欠いている。資金供与に加えて資材や労働者も中国側が提供するいわば丸抱えの案件も多く,現地産業の事業機会や現地の雇用機会への期待が殺がれてしまう。現地の居住民立ち退きや環境悪化を招く場合に対話や救済がなく,改善策がおろそかになると,相手国国民の反発を招く。これらに共通する背景は,相手国が発展途上国で政治経済体制がぜい弱で中国側との交渉力が弱く,また政権交代時に始まる案件も少なくない。

QUADやG7,EUの対抗策への期待

 中国がウィンウィンの互恵をうたい進めるBRI戦略は,相手国がインフラ建設で利便性や連結性が向上する反面財政や環境の悪化等負の効果が大きくなれば,その是正や改善策が求められるであろう。中国自身が是正,改善策を講じる上で,最近QUADやG7,EUが対抗策で打ち出した途上国インフラ支援が注目される。共通するのは,支援国と被支援国は民主的で透明性のある契約で後者に最大限譲許的な条件のインフラ建設を支援する質の高い内容である。それはOECDや世界銀行,国連等のこれまでの途上国開発協力原則や政策を踏まえたもので,法に則り,情報開示や透明性の高い支援策である。

 QUADやEUの対抗策によって,途上国サイドでは中国のBRI支援に加えあるいは代替するインフラ支援策の選択肢が増え,より有効で安心できる支援を受けることが可能になろう。中国自身も改善策を講じる改革の契機になることが期待され,中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)で既に一部始まっている世銀やその地域銀行との協調に加えて,QUADやEUの支援策とも連携する可能性がありうるであろう。RBIがその別称であるOBORは中国による“Our Bulldozers Our Rules”ではないかとかつて非難された(The Economist誌2016年7月2日号)ままでは,折角の大構想が活きて来ないと思う。

 問題を抱えたままの「一帯一路」海外戦略や最近の強面の戦狼外交は,このまま続くようには思われない。素人の感慨と言われそうだが,仙台で奉職時に民間の日中東北間交流事業に参画した経験では,中国の外務省や共産党中連部の人たちは友好的で礼節をわきまえ,戦狼外交の担い手とはほど遠かった。中には旧満州出身で魯迅が学んだ仙台留学者も少なくなく,彼らとは未来志向の意見交流を楽しんだ。その思いからすると,現在の中国政府首脳の独善的で攻撃的な姿勢はそのまま続くとは見られず,表向きとは違って友好的協調的な話し合いが必ずできるものと期待している。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2365.html)

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