世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2355
世界経済評論IMPACT No.2355

地域銀行によるASEANシフトの活発化

伊鹿倉正司

(東北学院大学 教授)

2021.11.29

 新型コロナ下において,地域銀行(地方銀行と第二地方銀行の総称)によるASEANシフトが活発化している。2020年以降,ベトナムのホーチミンに3拠点,シンガポールに1拠点が新たに開設される一方,香港,上海,ロンドンからの撤退が相次いでいる。

 地域銀行によるASEANシフトは最近10年ほどのトレンドであり,それ自体は決して真新しいものではないが,これまでにはあまり見られなかった特徴として3つの点を指摘したい。

 1点目はベトナムへの進出増加である。最近10年の地域銀行によるASEANへの主な進出先はタイのバンコクであった。2007年10月に八十二銀行(長野県)が駐在員事務所を開設したのを皮切りに,バンコクにはASEAN最多の19拠点が置かれている(全て駐在員事務所)。一方,地域銀行によるベトナムへの進出は,2012年3月の大垣共立銀行(岐阜県)のホーチミン駐在員事務所の開設が最初であるが,その後開設が相次ぎ,現在では首都ハノイに4拠点,同国最大都市のホーチミンには7拠点が置かれている。なお北陸銀行(富山県)は今年8月にホーチミン駐在員事務所の開設を予定していたが,新型コロナウイルス感染拡大に伴うホーチミンのロックダウン(10月1日で解除)の影響により事務所の施工が進んでいないことから,開設を延期している。ベトナムはASEANの中でも比較的人口が多く(約9,800万人),また賃金水準も低いことから,中国の生産拠点の移転先として注目を集めている。地域銀行のベトナム進出の増加は,顧客企業のベトナム進出に追従したものである。

 2点目はコンサルティング現地法人の設立である。戦後の地域銀行の現地法人設立は,顧客企業の外貨建て債券の引受を目的として,主に香港やブリュッセル,アムステルダムに設立された。1990年代後半の国内の不良債権問題の深刻化,海外資産の収益悪化などにより,その大半は清算されるが,最近では2017年4月に大垣共立銀行がハノイに,2019年10月にきらぼし銀行(東京都)がホーチミンに,2020年3月に大垣共立銀行がホーチミンにそれぞれコンサルティング現地法人を設立している。地域銀行のASEAN拠点のほとんどは駐在員事務所(40拠点)であるが,支店とは異なり受信・与信・為替業務を通じた金利収入や手数料収入を得ることができない。コンサルティング現地法人の設立は,日系企業に対する現地での法人設立・法人運営・投資・マーケット情報等のコンサルティングを通じた手数料収入の獲得を目的としたものあり,今後,コンサルティング現地法人の設立が増加する可能性がある。

 最後3点目はシンガポール支店の増加である。支店開設はそれまでの駐在員事務所を昇格させる形での開設であり,2020年7月には横浜銀行が,2021年11月には静岡銀行がシンガポール支店を開設している。先述のように支店では受信・与信・為替業務を行うことができ,今後の収益獲得が期待できるが,現在のところ収益化に最も成功しているのは伊予銀行(愛媛県)ではないだろうか。伊予銀行は2016年12月に駐在員事務所を支店に昇格させたが,その後,船舶関連融資を中心に着実に融資残高を積みあげている。最近では国内の業務提携行からの仲介を受けて,船舶関連以外の分野への融資を拡大させている。

 一方,これまでの地域銀行の主たる進出先であった香港や上海では撤退が相次いでいる。地域銀行の海外進出がピークを迎えた1995年当時,香港には最多の65拠点が置かれたが,現在は12拠点まで減少している。特に2014年の民主化デモ以降,拠点閉鎖や支店から駐在員事務所への降格が相次いでいる。また上海においても,2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟以降に進出が急増し,地域銀行の進出先としては最多の30拠点が置かれていたが,2020年以降は3拠点が閉鎖されるなど,現在は減少に転じている。

 今後も香港や上海からASEANへのシフトが続くか注目したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2355.html)

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