世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
縁故主義からの脱却を:コロナ後の日本経済の再生を考える前に
(早稲田大学・文京学院大学 名誉教授)
2021.11.15
世界経済における日本の地位が低下し続けている。経済の実態をよく表す1人当たりGDP(名目)をみてみると,日本は1995年の約4万300ドルが最高であった。それが,2020年では約4万100ドルでほとんど変わっていない。この間,先進国のみならず新興国の多くが経済成長と遂げた。国全体のGDP,生産性,競争力など他の経済指標をみても,わが国の世界経済における地位の低下は明らかである。
1990年のバブル経済崩壊以降,日本の経済はすっかり停滞してしまった。森喜朗首相は2001年1月のダボス会議で演説し,「失われた10年」からの脱却と構造改革や新たな時代に対する「IT戦略会議」の設置に触れている。しかしながら,その後も日本の経済は低下し続け,いまでは「失われた30年」といわれるまでになってしまった。
日本経済の停滞の原因は,少子高齢化に加えて,バブル経済の崩壊のあと,経営者たちがきわめて用心深くなり,成長よりも利益重視に経営の視点を変えたことがある。また,1970年代・80年代の日米経済摩擦の後遺症もある。こうしたことを背景に,企業が活力を失ったといえる。さらに,1995年1月の阪神淡路大震災,2001年にはITバブルが崩壊した。これに,2008年のリーマンショック,2011年3月の東日本大震災が追い打ちをかけた。
このような自然災害や外的な問題を考慮しても,日本経済の30年にわたる停滞は世界的にみて異常としか言いようがない。それでは,なぜ,このように長く日本の経済が停滞したのであろうか。
多くは経済政策面から議論され,経済のグローバル化やIT・デジタル化への対応の遅れが指摘されている。また,新自由主義的な経済政策の導入による格差の問題などもあげられている。時の政権担当者は,その都度あらたな経済政策を打ち出し,その内容はもっともらしいものであった。しかし,真の問題は政策の内容よりも,打ち出した経済政策が継続して実現されることがなくなったことである。
1990年のバブル経済の崩壊までは,日本は戦後の復興から成長へ舵を切り,国全体が同じ方向に向かって進んでいた。後発国モデルの「株式会社日本」といわれた政・官・財が一体化して成長し,「日本の軌跡」といわれた。1980年代には日本に学べと,多くの国が日本の経済政策やそれを支えた企業の日本型経営を見習おうとした。
ところが,バブル経済の崩壊以降,目標を達成した日本にとって,この後発国モデルは通用しなくなった。そこに,第2次産業革命に代わる「IT・デジタル産業革命」の波が押し寄せてきた。日本は新たな波に対応する政策を掲げ,IT・デジタル革命をリードしつつあったように見える時期もあった。ところが,2001年にはITバブルが崩壊し,出鼻をくじかれた。
それ以後,政権担当者は世間でいう「一内閣一仕事」に徹するようになったのではないだろうか。国全体の長期的な成長戦略を構想することはなくなり,自らの政権の成果のみを強調するようになった。同一政党内における政権交代が,まるで政党間における政権交代のようになってしまった。
この「一仕事」をしやすくするのには,それを受け入れてくれ,それを実行に移してくれる官僚や企業経営者が必要となる。いきおい,政権の仕事はこうした仲間や縁故者との関係で行われるようになってしまう。こうして,縁故主義がはびこり,不正行為,収賄や贈賄が頻繁に行われるようになった。
記憶にあたらしいところでは,森友学園の国有地の払い下げやそれに関連した財務省の公文書の書き換えなどがある。加計学園問題では規制改革のからみで,獣医学部の認可が20年ぶりに行われた。その経緯で首相と学園理事長との緊密な関係が問題視された。「桜を見る会」の問題もあった。総合型リゾート(IR)の推進役でもあった国会議員や農水産大臣の汚職の問題が発覚した。総務省の高官と利害関係者である東北新社や,NTTとの公務員倫理規程に反するような会食が明るみになった。さらに,広島県における参院議員選挙をめぐる贈収賄事件が明るみになった。この選挙では,自民党が提供した1億5000万円をめぐる出所と使い道が問題視されている。
さらに,自民党では2017年に党則を改正し,総裁をそれまでの2選から3選まで延長した。民主的な国家であれば,こうした変更は現職からではなく,次の人から適用するのが常識ではないだろうか。また,学術会議の問題も放置されたままである。
このような政治にまつわる多くの問題は,従来は発展途上国の問題と思われていた。このところ,コロナ後の日本経済の再生についての議論が活発になってきた。しかし,日本経済の再生を考える前に,こうしたなれ合いや縁故主義を脱しない限り,日本の今後の成長は望むことはできず,世界経済への貢献はおろか,世界経済における日本の地位は低下しつつけるといわざるを得ない。
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