世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
新しい資本主義とは何か
(北星学園大学 名誉教授)
2021.11.08
4年ぶりの衆院選挙が終了し,新たな日本の政治が動き出そうとしている。中で今回の選挙の公約のひとつである「新しい資本主義」という言葉がどうしても目に付く。言うまでもなく岸田新総理が掲げた用語以来である。しかし,多少経済学を学んだ人にとってこの言葉は極めて重大な意味を持った言葉として受け止められるだろう。
それはショッキングとして受け止められるかもしれないほどだ。翻って古い資本主義とは何だろか。それは市場原理に基づく経済活動を基本原則とする。従ってこの原理を是とする経済活動で国家はもとより国の地域も超えていく。まさにグローバリズムはこの原則に従った活動をいう。岸田首相の資本主義像はどうやらグローバリズムを否定していないようなので,この面では新しい資本主義の概念に入らないようである。では新総理の資本主義はどの様な意味で新しい資本主義なのか。
ここで首相の発言で注目に値するのは,「分配」を重視するという視点である。実質賃金が上昇せず分配が不十分であったという認識からの見解で尤もな発言であると思われる。しかしここでもそれが新しい資本主義の観点からの論理だというと直ちに納得がいかなくなる。 いうまでもなく資本主義の分配概念は,マクロ経済分析で典型的に示されるように生産,分配,支出の形で循環して創出され,しかもそれぞれの機能はGDPを構成する三面等価なのである。すなわち分配だけが生産や支出から突出することはないのである。
このことは分配を論ずるに生産や支出をどのように展開していくのかが同時的に問われるということである。確かに分配は賃銀のような労働所得を構成するがそれは生産所得を構成する付加価値,すなわちGDP及びそれに関連するが,日本ではこれが三十年近くほぼゼロ成長の経済成長を問題にしなければならないのは当然である。
勿論政府の税財政や民間企業の投資環境や輸出入などの広範な政策対応が不可欠となるのは言うまでもない。
単に賃金配分率のみではなく,それらを含む経済的分配を増大するという政策目標を達成するのはそれほど容易なことではないということは,これまでの資本主義の経験は教えてきているのである。
しかしともかく,古い資本主義に敢然と立ち向かう「新しい資本主義」政策が,現下の厳しい日本経済を再生させるだけでなく世界経済の進展にとっても重要な政策視点・課題であるという認識は共有できそうなので,是非納得性の高い議論と成果を期待したい。
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