世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2230
世界経済評論IMPACT No.2230

脱炭素化に向けた世界的流れと日本の取組について

松村敦子

(東京国際大学 教授)

2021.07.19

 本年4月に開催された米国政府主催の気候変動に関する首脳会議(気候変動サミット)には中国,ロシア,日本など40カ国・地域の首脳が出席し,主要国の2030年の温暖化ガス排出削減目標が明示された。パリ協定における気温上昇抑制目標達成に向けて日米英と欧州連合は2050年までに,中国は2060年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを目指すが,それに向けての2030年時点の中間目標が主要国・地域によって提示され,各国の取組に弾みがついたといえる。日本については菅総理大臣が,「2030年度において,温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指し,さらに50%削減に向けて挑戦を続ける」と表明した。この削減目標では従来目標の13年度比26%減から大幅引き上げとなり,国,自治体,企業が一体となった早急な取組が求められる。

 現在経産省では,2030年度の再生可能エネルギーの総発電量に占める比率を3割台後半,現状の2倍にすることを検討している。再生可能エネルギーの総発電量に占める比率については,EUでは2020年に化石燃料の比率を上回って38%となったと発表され(独,英のシンクタンクによる),米国でもバイデン政権のもとで再生可能エネルギーへの転換が促進され,2020年の19.7%から2022年には22.5%に拡大するとの予測を発表している(米エネルギー情報局による)。日本でも脱炭素目標達成に向けて再生可能エネルギー導入拡大が急がれる。

 日本では本年5月に,2022年施行を目指す改正地球温暖化対策推進法が成立した。2030年の削減目標達成の切り札として,規制やルールの見直しなど制度面からの脱炭素化推進の方策が盛り込まれている。第1のポイントは,2050年までの脱炭素化社会の実現,環境・経済・社会の統合的向上,関係者の連携等が,地球温暖化対策推進における基本理念として規定されていることであり,将来にわたる政策の継続性を世界に向けて発信し2030年目標達成に向けた各種の取組を軌道に乗せることが狙いとされる。

 第2のポイントは,地域での再生可能エネルギーを活用した脱炭素化促進事業推進のための認定制度が創設されることである。市町村が環境配慮,地域貢献を考慮しつつ住民や事業者による協議会での合意のもとに地域脱炭素化のための再生可能エネルギー促進区域を設定し,関係法令の手続きのワンストップ化と事業計画立案段階での環境影響評価法手続き簡略化等の特例を付与するものである。太陽光発電を始めとする再生可能エネルギー事業では地域住民とのトラブルが多発したこともあり,事業の経済性追求のみならず地形などの環境配慮,地域住民の了解などでの地方自治体のきめ細かな関与が重要であり,安心安全な再生エネ導入拡大に向けた実効性が期待される。

 第3のポイントは,企業の脱炭素経営促進に向けた企業による排出量算定,報告,公表がデジタル化され,事業所ごとの排出量に関する情報が公表される仕組みが構築されることである。企業の排出量が事業所ごとに可視化されればESG(環境・社会・企業統治)の観点からの企業評価が得られやすくなり,投資の呼び込みによる資金調達につながることが期待される。企業経営に対する政府の各種支援体制の充実も重要となる。

 企業の脱炭素への取組については,2021年版環境白書において,「RE100」,「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」,「SBT(科学と整合した脱炭素目標設定)」における日本企業の積極的参加が紹介され,また,企業の脱炭素経営,循環経済,ESG金融等での政府と経団連の連携について説明されている。「RE100」は,再生可能エネルギー100%を目指す企業連合であり,2021年7月5日時点での世界の参加企業は300社超,日本の参加企業数は米国に次ぐ56社と多くなっている。また,RE100に参加する国内外の取引先企業が温暖化対策を求めるケースも増加し,対応できなければサプライチェーンから外されるリスクがある一方,脱炭素の取組による事業機会拡大チャンスにも直面しており,白書では企業経営戦略において環境対策方針を組み込むことの重要性を指摘している。

 今後の日本の課題としては,先ずはカーボンプライシングについて排出量取引と炭素税についてメリット,デメリットの議論を進め,早い段階での導入に向けて効果的な制度設計を打ち立てる必要がある。また,浮体式洋上風力発電等の再エネ大幅増強,電気自動車の普及,脱炭素化の技術開発と投資資金の呼び込みなどが重要となる。脱炭素化技術に関しては,低コストで薄い太陽電池,電気自動車用蓄電池・全固体電池,水素・アンモニア燃料,CO2貯留など様々な技術のうち,日本の得意技術での優位性を生かし遅れている技術での巻き返しを狙って開発を進め,国際間競争に打ち勝つ多大な努力が必要である。世界的な脱炭素化の流れの中で日本の存在感を示すべく,早急な対応が求められる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2230.html)

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