世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
WTOとFTAからみる今後のASEANと日本の課題
(金沢星稜大学経済学部 教授)
2021.06.28
WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)についてその目的は,世界において貿易や投資などの国際取引を自由化し,効率的な国際分業を実現することである。
そして,各国の経済的厚生を高度化するために,GATT(General Agreement on Tariffs and Trade:関税及び貿易に関する一般協定)の内容を強化し,受け継ぐ形で,1995年1月に発足した。
WTO成立の背景として岸本(2012)はリージョナリズムの台頭にともない
- ①保護主義/域内関税
- ②最恵国待遇 ⇔ 差別的貿易
- ③発展途上国問題:南南問題
- ④新しい課題として知的財産権/サービス貿易/セーフガード
をあげている(注1)。
ここで②の最恵国待遇 ⇔ 差別的貿易についてみると
最恵国待遇には本来反するが,その貿易自由化効果ゆえに,一定の要件の下にFTAが認められている。(「締約国は,任意の協定により,その協定の当事国間の経済の一層密接な統合を発展させて貿易の自由を増大することが望ましいことを認める」(関税及び貿易に関する一般協定(GATT)第24条第4項:以下GATT24条と略)。
経済統合についてGATT24条を参考にしてまとめる。
渡邉(2016)は,FTAや関税同盟はメリットだけでなくデメリットもあるとしている。
FTAや関税同盟は,グローバルな資源配分という観点から,貿易創造効果というポジティブな面もあるが,貿易転換効果というネガティブな面もあるという点をあげている。
そして渡邉は続けて,戦後の通商体制においては,最恵国待遇原則(principle of most-favoured nation treatment:MFN原則と略)にのっとり,「自由・無差別・多角的貿易」をベストとして,域外に差別的な効果を有する関税同盟や自由貿易地域などの特恵的貿易取り決めはセカンドベストとした。
「比較優位の原則」の国際分業理論によれば,本来は,特定の地域や2国間の地域経済統合は貿易の自由化には相当しない。地域経済統合は,不可避的に第三国を「アウトサイダー」(かっこは原文どおり)としてしまうことになるからにほかならないとしている。
こうして,地域経済統合は,GATTの下,一定条件の下で許容されるMFN原則の「例外」(かっこは原文どおり)と規定された(注2)。
現在の世界では,自由貿易とは逆の保護主義という潮流が起こっているのは言うまでもない。
FTAやメガFTAとよばれるTPPやRCEPはWTOでの交渉不全化という背景からセカンドベストとして出てきた経緯がある。
今後検討されるべき課題として,メガFTAがWTOを補完しうる機能を果たしているか,改善すべき点は見直すという行動がASEANのみならず日本にも求められている。
内閣官房TPP政府対策本部(2015)は,TPPの意義として
第一に,TPPは,モノの関税だけでなく,サービス,投資の自由化を進め,さらには知的財産,電子商取引,国有企業の規律,環境など,幅広い分野で21世紀型のルールを構築する(中略)。
第二に,中小・中堅企業,地域の発展への寄与として(中略)-ヒト,モノ,資本,情報が自由に行き来するようになることで,国内に新たな投資を呼び込むことも見込め,都市だけではなく地域も世界の活力を取り込んでいくことが可能となる。
第三に,長期的な,戦略的意義として,自由,民主主義,基本的人権,法の支配といった普遍的価値を共有する国々とともに貿易・投資の新たな基軸を打ち立てることにより,今後の世界の貿易・投資ルールの新たなスタンダードを提供。アジア太平洋地域において,普遍的価値を共有する国々との間で経済的な相互依存関係を深めていくことは,地域の成長・繁栄・安定にも資するとしている(注3)。
ここで,最後の地域の成長・繁栄・安定にも資するという点で,中国とASEANの関係性が大いに問われている。
今後注視していきたい。
[注]
- (1)岸本寿生(2012)富山大学岸本寿生研究室HP「現代の貿易Ⅱ 経済統合」(2021年6月24日最終アクセス)
- (2)渡邉頼純(2016)「日EU・FTAの意義‐普遍的価値を共有する自由貿易地域の構築‐」石川幸一・馬田啓一・渡邉頼純『メガFTAと世界経済秩序—ポストTPPの課題—』勁草書房,35ページ。
- (3)内閣官房TPP政府対策本部(2015)「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の概要」(2021年6月24日最終アクセス)
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