世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.558

イノベーションの原動力は欲望である

鶴岡秀志

(信州大学COI 特任教授)

2015.12.14

 2015年政治経済界の流行語大賞は「破壊的イノベーション」だろう。アベノミクスを加速するために破壊的イノベーションを推進すべきという意見に疑問はないが,どこにも5W1Hの話がない。概ね,「中小企業のものづくり力を活用して」「ニッチ市場から始めるベンチャー」で終わってしまう。現実には,インダストリー4.0に象徴されるようなITCを駆使した産業改革論が流行りである。世界経済の関心はFRBの利上げのタイミング,フィンテックス,中国経済の減速である。モノの製造,流通,販売による利潤追求という考え方は時代遅れとなってしまった感さえある。面白い現象がある。イノベーションであった宅配サービスは短時間配送とコンビニ引き取りへ向かっているが,後者は旧国鉄「チッキ」の駅止めと同じである。ビジネスモデルの循環と言える。ロボットで東大ベンチャー・シャフトがGoogleにBuy-Outされたことを霞ヶ関と経済界は猛省したのだろうか。日米開戦前に零戦を米国海軍に買収されたに等しいと考えれば罪の大きさが想像できるだろう。

 玉田俊平太博士曰く,破壊的イノベーションはおもちゃ(あるいは模型)から始まるというのはその通りである。モノの原点である素材ビジネスは数量がまとまらないと赤字でありTake Offできない。模型は通常の工業製品と比べると割高な製品であるが品質評価はユーザー次第である。一機100万円を超すラジコンヘリが墜落しても基本的に自己責任である。それだからこそ,模型のユーザーは必死に工夫をするのである。ここに材料系イノベーションのネタがあると言っても過言ではない。流行りのドローンでさえも無茶苦茶な電池の使い方やコイル巻き直しモーターなど当然のように登場する。安定操縦につながる電波干渉防止材料や軽量化材料は片端から試されている。

 オタク的挑戦は技術を市場創出に繋げる触媒である。80年代初期に電話回線で実用化されたインターネットは,当時,FAXの代替とみなされた。しかし,エロサイトのダウンロード速度と画質の向上,動画の圧縮とモザイクの除去など「必然性」により改良が加速され,現在のスマホやITCに繋がっている。ITCは国家レベルのサイバー戦争の技術開発と防止のサイバー戦場でもある。類似例で,人型ロボットは重要な近未来産業であるが,建前はどうであれ産総研でさえ美少女フィギュアの実体化と思しき開発を行っている。類推される次世代ロボット大規模市場はヒトの皮膚感覚(センシング)を持つ「アンドロイド」であり,それを実現する材料とITC組み合わせ技術と考えてよい。「柔肌を…」でも「赤児を抱きしめる」のどちらでもよいが柔らかい機械を生み出すことである。これを現在の硬い「機械」で実現することがいかに難しく,しかし,近い将来に中小企業のチカラで実現可能直前であることを知れば,資源を投資すべき目標が自ずと定まる。

 人間のような皮膚感覚を持ったメイド・アンドロイドに優しく介護され,世界を脅かすテロにはランボー・アンドロイド軍団が対応する時代は近い。このようなマンガチックな発想から破壊的イノベーションを妄想するのに最適なアキハバラという場所が我が国には用意されていることを忘れてはいけない。COOL JAPANの代表であるAKB48もアキハバラ発である。残る問題は,ITC技術を活かす新材料の開発と組み合わせを実現して加速させるコーディネーションである。俗に言うマッチングは最早時代遅れであり,バリューチェーン構築を目指す組み立て力を要求されるだろう。GDP 600兆円を目指し,「世界経済評論」のテーマとすることを提案したい。

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