世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2173
世界経済評論IMPACT No.2173

更に飛躍する半導体産業:カスタム化多種少量生産とAI化半導体

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.05.31

半導体産業の系譜

 半導体産業発展のドライビング・フォースは「ムーアの法則」であった。半導体の性能とコストは電子回路の「線幅」(微細加工の度合い)で決まる。線幅が細ければ細いほど,集積度が上がり,半導体の性能は上がり,消費電力が下がり,シリコンサイズが小さくなってコストが下がる。1965年ゴードン・ムーアが唱えたもので,「18カ月ごとに半導体に集積度が2倍になる」というものであった。

 しかし微細加工が進むとチップの単価は劇的に下がっていったが,その製造設備のコストと半導体製品のマスクコストは劇的に高くなっていった。そのために同じチップを大量に使ってもらう半導体商品が出なければならない。アメリカでは半導体を使う新しい電子機器商品を次々に開発されていった。IBMの「大型コンピュータ」から「通信機器」,「ワークステーション」,「家電製品」,「ワード・プロセッサー」,「パーソナル・コンピュータ」,「携帯電話」,「ゲーム機」,「タブレット」,「自動車の電子化」,「スマートホン」が次々と開発されてきた。これにより半導体産業が拡大・発展した。半導体の製造では,「ムーアの法則」での「微細化」がどんどん進んだ。「線幅」200ナノからどんどん微細化し,190ナノ,60ナノ,そして45ナノ,28ナノ,17ナノ,7ナノと進んできた。今スマートホンでは5ナノのチップが使われている。微細加工が進むとその製造機械はますます高価なものになり,それを償却するにはより多く売れる半導体商品が求められ,それがエスカレートしていった。

ムーアの法則の壁

 しかしここにきて「微細化への競争」に変化が起きてきている。つまり,これ以上微細化を進めても,これまでのような比率で半導体の性能が上がらなくなり,コストも下がらなくなってきた。「ムーアの法則の壁」にぶち当たったのである。そして先端微細加工機械装置はますます複雑化し,コストも高くなり過ぎてしまった。しかしこの複雑化した法外なコストの製造装置を使いこなすような大量に売れる商品が,スマホ以降見えなくなった。スマホ,携帯電話でも市場が成熟してしまい,韓国のLGは中級携帯電話ビジネスをギブアップし,撤退してしまった。中国製の安物スマホのスマホで価格切り下げ競争が激化し,儲からないビジネスになりつつある。スマホのような大量に売れる新しい商品が出るのを待っているが,なかなか出てこない。

これからの半導体市場と商品;AI(人工知能)が入る半導体

 資本主義経済は常に変化しながら発展するものである。商品の寿命はますます短くなってきている。しかし商品はいろいろの形で変化しながら発展する。「プロフェッショナル商品」から「大衆商品」へ,「集中商品」から「分散商品」へ,「汎用標準製品」から「カスタマイズド製品」へと変化する。これらはそれぞれサイクル的に循環する。そしてその変化がイノベーションのトリガーになる。

 具体的に見ると,かつて「メカニカル製品」に「電子デバイス」が加わり「メカトロニクス商品」になり,大きな「電子機器商品」「家電消費」の市場が生まれたように,今やあらゆる商品に「AI(人工知能)+Sensor(センサー)」が入り,「頭脳を持った電子機器システム商品」になりつつある。つまり半導体は「頭脳・神経」として商品にAI機能を付与し,付加価値の高い商品を変身させるのである。これから医療機器,自動車,家電製品,通信機器,機械工業機器,ロボット,農業生産機器,建設機械,船舶などにAIとセンサーが入ってくる。自動車もAIとセンサーが入り「自動運転の時代」になる。通信機器5G,6GにもAIチップが入ることになる。こうしたAI半導体はこれから人間の体の中にも入ってくる。

 このようにして半導体は「汎用標準製品」から個々のアプリケーションにフィットする「カスタマイズド製品」に進む。これまでインテルの汎用CPUや エヌビディアの汎用GPUを使っているものを,アップルは,自分の商品に新しい特長を付与し,付加価値を上げるために4月20日iPad Pro用にAI機能「ニューラルエンジン」をもった自社開発したプロセッサー「M1」を発表した。グーグルも自社で開発したAI半導体の「TPU」を開発し,アマゾンも自分のデータ・センター用に「グラビトン」という独自のCPUを開発した。こうしたカスタマイズした半導体が多くの分野に広がっていく。そうなると多くの競争者が出てきて,その半導体も「大量生産」から「少量・中量生産」の時代に入る。これはムーアの法則を越えた新しい世界である。

多種少量生産用半導体製品:Chiplet(チップレット)

 「少量・中量生産」のための新しい生産方式が開発されることになる。ここにイノベーションのチャンスが広がる。多種少量生産の製品の一つとして「チップレット(Chiplet)」というものがある。「レゴ」や「積み木」のような考えで,あらかじめいろいろの「半導体モジュール」を用意しておいて,実際の半導体のスペックに合うようにそれをいろいろ組み合わせて,新しいチップを作るものである。これはいろいろの「半導体・モジュール」をレゴのように繋いで全体の電子回路を形成する「インターポーザー」をベースにした「SIP(システム・イン・パッケイジ)技術」が進化したことにより可能になった。

 この技術開発の背景は,AIやSensor(センサー)が入るといろいろの「アナログ」の半導体が必要になり,ロジック半導体とアナログ半導体を別々のプロセスで造ることになる。これを「カスタマイズ」ということで商品によりいろいろの違った半導体デバイスがでてくる。しかしこれまで通りの一体型の「半導体SOC(システム・オン・チップ)」でそれを造ろうとするとコストは高くなり,開発時間が長くなる。これをChipletで簡単に,安く,迅速に造るのである。

 いろいろの新しい商品が市場に出しても最初はそんなに数は出ない。それを最初から一体型のSOCでやろうとしても,大きな初期投資のためにできない。ここ20年半導体は微細加工と追及して18ナノ,12ナノ,7ナノで半導体を造ってきたが,前述のように先端微細加工製造装置ではチップ単価は安いが開発コスト(設計費,半導体加工のマスクコスト)が高くなってきたので,売れるかどうか分からない新商品にたいしては半導体をつくることができなかった。これがこの20年「イノベーションの停滞」と言われたことの原因である。だがChipletはそれを可能にし,イノベーションを促進する。このChiplet商品は日本がやるべき仕事である。

 AIチップは使い方によっては兵器にもなり,人を監視し,弾圧するものにもなる。AIの入った通信機器の5G,6Gは,場合によっては盗聴したり,データを不法に抜き取ることになる。AIはその社会の文化,歴史,習慣,道徳を反映し,個人情報,機密情報を扱うことになるので,その適用に「倫理基準」が必要になる。今EUはそのAIの適用に対する倫理基準を創ろうとしている。そうしたAIチップは日本で造ったものを使う必要がある。安易にアメリカ製や中国製のものを使うわけにはいかない。AIとセンサーの入った商品は日本がこれから力を入れてゆくべきものである。

 またAIチップのエンジンとなる「エッジ・プロセッサー」として超低消費電力で,シリコンサイズの小さい「マイクロプロセッサー」の開発をする必要がある。これを日本が開発しなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2173.html)

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