世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2120
世界経済評論IMPACT No.2120

バイデン大統領の100日間:順調なスタート,ワクチン接種,重要法案の成立

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授)

2021.04.12

スタートは遅れたが,順調な滑り出し

 新政権が発足して最初の100日間に何を成したか。これは1933年に就任したフランクリン・ルーズベルト大統領以降,新大統領の実績を計る重要な尺度となっている。トランプ前大統領の敗北拒否で政権移行作業が1ヵ月以上遅れ,さらに同大統領に対する2回目の弾劾裁判で議会審議が中断されたが,バイデン新大統領の最初の100日は予想以上に順調に進展している。バイデン大統領の100日が終わる4月29日まで,あと3週間となった。

 15省の長官はマーティ・ウォルシュ労働長官を最後に,3月22日,全員が上院本会議で承認された。トランプ政権の4月24日,オバマ政権の同28日より1ヵ月以上早い。また,ロン・クレイン大統領首席補佐官によると,大統領が指名した長官候補者が,指名撤回や再指名もなく全員そろって承認されたのは40年ぶりだ。15閣僚の構成はバイデン大統領の公約通り「米国の縮図」となった。男女の構成は10対5,人種構成は白人9対非白人6(ヒスパニック3,黒人2,先住民系1)。史上初の女性財務長官,黒人国防長官も誕生した。「多様性こそ米国の強み」というバイデン大統領の信念が貫かれている。

 全閣僚(Full Cabinet)の構成は大統領によって異なるが,バイデン・ハリス政権の閣僚は15長官(Statutory Cabinet)に9人の長官等を加えた24人で構成され,上院の承認が済んでいないのは2人だけとなった(注)。また,省庁の副長官や次官などの就任も順調だ。Political Appointee Trackerによると,上院で承認された政権幹部はすでに29人に達し,同時点でのトランプ政権の承認数を超えた。100日間の承認数は政権別にみると,オバマ68人,クリントン45人,ブッシュ33人,トランプ25人だが,このペースで進めば100日目の承認人数はオバマ政権並みとなろう。

 上院の承認が必要ない大統領顧問を迅速に任命しているため,バイデン大統領自身の動きも活発である。American Presidency Projectによると,バイデン大統領が4月2日(就任73日目)までに発出した大統領令(Executive Order)は38件でトランプの23件,オバマの18件より遥かに多く,大統領令,大統領覚書および大統領布告を合計した総件数はルーズベルト大統領のそれを超えて史上最多記録を更新し続けている。バイデン大統領の大統領令が多いひとつ要因は,WHO離脱中止,パリ協定復帰など,トランプ大統領の命令を撤回するために発出されたものが半数を占めることにある。

 4月2日までで,バイデン大統領はトランプ大統領の決定を撤回するために19件の大統領令を発出し,合計62件のトランプ決定を撤回した。トランプ大統領が前任のオバマ大統領の決定を撤回するために発出した大統領令は7件,撤回されたオバマ大統領の決定は12件であった。これは,バイデン政権がいかにトランプ路線と異なるかを示している。なお,3月26日までの時点で,大統領令が訴訟された件数は,トランプ政権の39件に対してバイデン政権は14件である。

バイデン政権の当面の目標は国内体制の強化

 4年前の今頃のトランプ政権はどうであったか。イスラム圏からの米国入国を禁止する大統領令が裁判所の違憲判断で執行停止となり,最初の重要法案であるオバマケア撤廃法案が議会で否決の可能性が高まり,急遽取り下げられている。首席戦略官という訳の分からない肩書をもったバノン大統領補佐官の独断専行,政権と議会との調整不足が原因であった。それでもトランプ大統領は「就任後の短期間でこれほど仕事をしている大統領はいない」,「トランプ政権はよく調整された機械のように動いている」と自尊していた(本コラムNo.818参照)。

 上院議員歴36年,オバマ大統領の副大統領8年の経歴をもつバイデン大統領は,政治歴ゼロ,内政,外交に明確な理念と構想がなく,予見不可能なトランプ大統領とは全く異なる。外交は内政の延長というのではなく,「もはや外交政策と国内政策に区分はない」(2月4日の国務省演説)と断言するのは,米国のミドルクラスの繁栄を内政,外交の最大の目標としてからであろう。

 バイデン・ハリス政権が取り組む最初の課題は,①コロナ感染拡大の阻止,②コロナ禍の救済,③長期構造問題の解決の3点。ワクチン接種は目標を達成し,今や1日300万接種に達している。コロナによる1日の死者は10万人当たり平均0.3人に低下した。7月4日の独立記念日にはバーベキューを楽しめるようになると大統領は自信を示している。コロナ禍の救済対策は,3月10日,総額1.9兆ドルの「米国救済計画法」が成立し,3月24日には1400ドルの現金給付が1億人の口座に振り込まれたという(翌25日の記者会見での大統領発言)。

 救済計画法は国民の75%,共和党支持者の59%から支持された。しかし,短期的な救済策では米国の長期構造問題は解決できない。このため次に議会に要請するのが総額2兆ドルのインフラ復興雇用計画法の制定である。財源捻出のため増税が必須となり,共和党による議事妨害(フィリバスター)も予想されるが,新政権は選挙公約であるビルドバック・ベター(より良く米国を再建する)に向かって前進している。

[注]
  • 閣僚級の9人は大統領首席補佐官(上院の承認不要),国連大使,国家情報長官,通商代表,環境保護庁長官,行政管理予算局長(指名撤回),経済諮問委員会委員長,科学技術政策局長(上院未承認),中小企業庁長官(White House HP記載順)。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2120.html)

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