世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2114
世界経済評論IMPACT No.2114

日本の教育を根底から変える:AIの活用により個性を育てる

小林 元

(元文京学院大学 客員教授)

2021.04.12

 筆者は先回の拙稿(2020.12.21)において,菅政権が打ち出した,⑴カーボンフリー,⑵DX政策は,時機を得たものであり,これを遂行するためにはbreak throughな技術をいかに開発するかが鍵であり,問題はこうした開発に挑戦する「志があり,それを成し遂げる知見と何としてでも成し遂げる気力を持ち,かつ人々を引張って行ける人材」をいかに育てるかがポイントであり,そのためには企業はjob型の雇用制度への転換が急務であるとの私見を述べた。

 今回筆者が述べたいのは上記のような人材を育てるには企業内だけの変革だけでなく,日本の教育の在り方にまでさかのぼって,根底からの転換を図らなければならないということである。

 明治以来の国家と企業に奉仕する人材育成のための画一的な詰込み教育から,一人一人の個性を育て,自分の志を持って仕事に立ち向かってゆくような人材を育て上げる教育への転換である。Passive learning(受け身の学習)からActive learning(主体的学習)への転換である。

 明治維新を成功に導いたのは,江戸時代においては上級武士階級たちに対する藩の教育だけでなく,下級武士や庶民に至るまで,いわゆる「寺子屋式教育」が普及しており,個人個人の学習程度に応じた教えがなされていた民度の高さが根底にあったといわれる。吉田松陰の松下村塾の教育が主として討論によって行われていたのはよく知られている。

 今政府はGIGAスク―ル構想のもとにPCを生徒一人ひとりに配布しようとしているがハードを整えるだけでは不十分で,このハードを使って何を目指すのか,どのような人間を育ててあげようとしているのか目標の論議が十分されていない様に思う。

 AIは,一人ひとりの習得の度合いに応じて最適な学びを提供することが出来るという。

 例えばある生徒が数学の問題を解けなかったとする。するとその理由を突き止め,理解してなかった点を復習させてくれることを可能にしてくれる。先生は今まで個々の生徒の理解度をみてこのような個別指導をすることはできなかった。まさに寺子屋式の教育が可能になるのである。これにより落ちこぼれが少なくなるのは確実であろう。又この方式の導入により,生徒の習得速度が速まり,時間に余裕が生まれてくることが実証されている。こうして生まれた時間を生徒の発表や討論に回すことが出来るようになる。この結果先生の役割は劇的に変わる。今までは生徒に教科書に書いてあることを教えていた。これからはそれをAIがやってくれる。先生は生徒たちが自主的に学ぶのを見つめてそれがうまくいくようにアドバイスしてゆくのが役割となる。

 AIを教育現場に本格的に導入するということは,先生方には大変な負担がかかるであろうことは想像に難くないことである。この変革に抵抗する先生方もいるであろう。しかし今世界中を怒涛の如く襲いつつあるこのIT革命は日本だけが,また教育界だけが避けて通るわけにはいかないということを理解してもらわねばならない。この変革の過程では彼等が変革を遂行できるよう,行政は研修など十分な助けを差し伸べることが必要である。

 現場の先生方に理解していただきたいのは,この変革は日本に「主体的な人間教育」を生み出すものであるだけではなく,教員側にとっても過酷と言われる現在の働き方をAIに職務の相当部分を任せることにより,仕事量の軽減につながる大きな可能性を秘めているということである。AI導入を前向きにとらえて「新しい働き方」を生みだしてほしい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2114.html)

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