世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2099
世界経済評論IMPACT No.2099

Quadワクチン・イニシアティブの意義と願い

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2021.03.29

 米国はバイデン大統領就任後,そして日本では菅首相になってから初めてのQuad首脳会議がインドのモディ首相と豪州モリソン首相の参加を得て,3月12日オンラインで開催された。この会議は「自由で開かれたインド太平洋構想(FOIP)」を推進する4カ国首脳の主として中国との安全保障問題を話し合う会合(Quadrilateral Security Dialogue)であるが,世界的に新型コロナウィルスの感染拡大が続く中でその対策の切り札となるワクチン生産協力が合意された。コロナ対策は4カ国のみならず世界各国と人類の生存が直面する課題で,今後膨大な量のワクチンの接種が必要とされる見通しからこの合意はポジティブな評価が多く,特にインドでは国内生産力が高まり国際協力に資するとの期待が大きい。

 新型コロナウィルスは感染力が強く,世界的なパンデミックの収束見通しはまだ立っていない。対策の切り札として今年からワクチン接種が始まっているが,まだ先進国や一部の途上国にとどまっている。また,ワクチンの開発と生産国は限られている現状から,世界の需要を賄うワクチンは絶対的に不足している。Quad4カ国の中では,米国とインドのみワクチン生産が行われ国民への接種を行っているが,日本や豪州では国民に接種するワクチンは輸入に頼っている。この現状の中で,Quad首脳会議では2022年末までに米国で開発されたワクチンを少なくも10億回分インドで生産しインド太平洋地域等に供給する技術や資金の国際協力が合意され,ワクチン増産への期待が高まっている。

 インドは,世界的な医薬品の生産国である。特に,特許期限切れの医薬品であるジェネリック医薬品で世界生産の2割,感染症のワクチンでは6割にも及ぶ生産実績を誇り,世界各国に輸出・供与されていることから,インドは“Pharmacy of the World”(世界の薬局)とも言われる。ワクチンの開発・生産にはバイオ・テクノロジーやITデジタル技術が必要であるが,インドは国際的な水準を確立している。そして,目下は英国のオックスフォード大とAstra Zeneca社開発のワクチンを世界最大のワクチン・メーカーSerum Institute of India がCovishieldワクチンとして生産,インド企業Bharat Biotech 社がCovaxinワクチンを生産し使用されている。

 欧米以外では発生源と目される中国がいち早く2種類のワクチンを開発,国内用だけでなく海外諸国への供与や輸出向けの生産を行っている。ロシアもワクチンを生産し,国内接種だけでなく海外へ提供し,インドでも生産が予定される。両国とも海外の友好国向けにワクチンを提供しており,特に中国は,“一帯一路”構想のHealth版シルク・ロード政策で沿線国にマスクやワクチンを提供する「ワクチン外交」に熱心である。インドは,昨年新型コロナウィルスの感染が始まった早い時期に,モディ首相は活動休止の南アジア8カ国の地域協力機構SAARCにCovid-19 Fundを立ち上げ,マスクや医療器材の提供を行い,ワクチンは最優先で無償供与してきた。さらに,Vaccine Maitri(友愛)Initiative政策で,中東やアフリカ,カリブ海諸国等へワクチン提供を行っている。

 中国やロシアのワクチン提供は治験結果等の情報透明度が低いといわれる中で,インドのワクチンは国際基準の情報開示が行われ,信頼度は高いと評価されている。さらに,中国やロシアの自国利益を重視するワクチン外交ではなく,WHOやUNICEF等国連とも連携し人の命を救いパンデミックの早期収束に注力している。こうしたインドのワクチン外交はQuadの協力で生産・提供・接種が一段と進むと期待され,WHOのワクチン共同購入枠組みCOVAXとの連携も図られて,国際協調への貢献も期待される。また百年前のスペイン風邪を初め多くの感染症感染経験を活かす人々の行動基準等の対策は多くの途上国に参考になり,さらにワクチン接種や証明にマイナンバー制度を活用するデジタル公共インフラIndia Stackの有用性が評判で,環境整備の見本とされている。

 こうして見ると,先のQuad会合で合意されたワクチンの生産協力は世界の生産と流通,そして接種不足の解消に繫がる効果が期待される。また,現在の政治的な競争を避ける契機としてインドの生産力がさらに高まって,中国やロシアとも協調する結果となるようにQuadやインドの協力が期待されよう。そして,新型コロナウィルス感染のパンデミックを収束させることに繋がれば,先のQuad会合のワクチン合意の意義は極めて大きい。年内には今後の検討を踏まえた首脳面談会議が予定されることから,新型コロナウィルス対策ではぜひ政治的な争いを解消してパンデミックの早期収束を実現して欲しいと願う。

 インド国内の感染状況は,昨年9月の拡大ピークから今年に入って感染者数や死亡者が大幅に低下し,注目されていた。しかし,欧米主要国や日本では第3波,第4波の感染拡大に見舞われる中で,インドでも3月に入り第2波の始まりかと見られる感染拡大が続く。政府は規制緩和に伴う国民の警戒心の緩みを正すとともに,変異ウィルスの監視を強化し,1月16日から開始したワクチン接種を夏までに3億人に行う予定である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2099.html)

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