世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2082
世界経済評論IMPACT No.2082

経済活動への統制を強める北朝鮮:「非社会主義的行為」に対する法的監視・取締の強化へ

上澤宏之

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2021.03.15

 金正恩体制下で進められてきた市場メカニズムの活用を中心とした「経済改革」の動きがこのところ鈍化している。近年,「社会主義企業責任管理制」の導入などを通じて企業所・工場の自由な経営活動を許容してきたものの,経済制裁で国内経済状況が悪化することなどに伴い,経済活動に対する国家統制を強めてきているのである。その端的な動きと言えるのが,今年1月に開催された第8回党大会であろう。ここで金正恩党委員長は約四半世紀ぶりの長期経済計画となる「国家経済発展5カ年計画」の提唱を通じて「計画経済」を軸とした経済再建策を打ち出すとともに,「国家による統制機能の復元と経済全般に対する指導管理の強化」を主張した。つまり,これまで金正恩体制が取り組んできた市場メカニズムを活用した経済運営から中央集権的な「計画経済」へと軸足を移したものといえる。

 それでは北朝鮮は今後どのように経済統制を強める方針なのか,朝鮮労働党中央委員会機関紙『労働新聞』に掲載された党中央委員会第8期第2回全員会議(2月8~11日)における金委員長の言辞などからその特徴を整理してみたい。

 第一の特徴は,経済事業に対する国家の統一的指導の強化を提唱したことが挙げられる。とくに「内閣と国家経済機関」に対しては,本来有する「経済組織者的機能と統制機能を復元し,経済全般に対する指導管理を改善する」ことを強く促した。また,「必ず輸入しなければならない物資でもなく,力を尽くせば国内で生産できる製品も(海外から)買って使うよう指導するのは,経済指導機関が自力更生のスローガンを歪曲し,自らの責任を下部単位に押しつける最も典型的な怠慢行為」などと失政例に言及した上で,「こうした状態が持続すれば,国家の経済権と統制力が徐々に消失し,国営企業所を非法的な金稼ぎ(機関)に追いやる結果を招く」と内閣による経済統制の実態に警鐘を鳴らした。

 第二の特徴は,国家機関や企業の「拝金主義」を強く批判したことが指摘できる。具体的には経済活動における「単位特殊化と本位主義」を取り上げ,その「拝金主義」的傾向に強い懸念を示した。「単位特殊化」とは,党や軍,政府機関傘下の企業所・工場などの経済「単位」がその特殊権限を乱用して(私利私欲で)金儲けに走っていることを指し,「本位主義」とは,機関や企業が自らの利益だけ追求することを意味する。金委員長は「勢道(権威を振りかざす行為)と官僚主義,不正腐敗が個別的な人々が犯す反党的,反人民的行為とすれば,単位特殊化と本位主義は,部門と団体の帽子をかぶって行われる更に厳重な反党的,反国家的,反人民的行為」と述べ,国家機関(傘下企業)による無秩序な経済活動を激しく糾弾した。

 第三の特徴は,経済活動に対する法的監視と取締の強化を打ち出したことが挙げられる。金委員長は「法制部門で人民経済計画遂行の障害となっている不合理な要素を除去し,生産と建設の効率を高めることができるよう新たな部門法を再整備しなければならない」と述べた上で,「経済活動で現れるあらゆる非社会主義的行為(違法行為など)との法的闘争を強力に展開し,すべての部門,すべての単位がこれに絶対服従するようにしなければならない。現時期,国家の存立と発展,社会主義経済活動の主な障害となっている単位特殊化,本位主義との法的闘争をレベル高く繰り広げなければならない」と強調した。

 これは前述した「単位特殊化と本位主義」の顕在化に加え,近年北朝鮮で拡大してきた「市場経済化」で経済をめぐる不正腐敗が社会全般に蔓延していることなどを念頭に置いたものとみられ,「経済管理問題を至急解決することを,わが国家の社会主義的性格を固守し,反社会主義,非社会主義的現象を根絶するための非常に重要な課業として打ち立てなければならない」と訴えた。

 そして最後の特徴として,経済停滞の「内的要因」を追及していることに言及したい。北朝鮮は,経済低迷の原因を経済制裁などの「外的要因」に求める以外に,経済事業の悪弊や官僚組織に蔓延る悪習などの「内的要因」にも積極的にその答えを見出そうとしている。これは経済制裁(外的要因)の解決に向けた展望を示すことができない中,経済運営で障害となる官僚主義などの弊害(内的要因)の克服を通じて経済成果を上げようというものである。一例を挙げると,農業部門に対しては「農事条件が不利な状況にある上,国家的に営農資材を円滑に保障することが難しい現状態を全く考慮せず,5カ年計画の初年度から穀物生産目標を主観的に高く打ち立て,過去の如く計画段階からすでに官僚主義と誇張(の誹り)を免れない」と厳しく叱責した上で,「権限がないとか,条件が整わないなどと不平を述べたり,為す術がないと傍観したりしていた古い惰性から脱皮し,経済的難関と隘路を克服するための事業を大胆かつ積極的に展開しなければならない」と檄を飛ばした。「不合理な事業体系」「旧態依然とした思考観点や働き方」「無責任な事業態度,無能力」などの「社会主義建設を阻害する否定的要素を徹底して克服する」ため,「新たな創造」「雄大な変革」「不断な前進」などを積極的に促す,いわゆる「新しいものと古いものとの闘争」(「新しいものは古いものとの闘争を通じて生まれる」の意)を通じてイノベーションを起こそうという狙いである。

 従来,経済管理問題をめぐっては,金委員長肝入りの政策である「社会主義企業責任管理制」の運用方法などに焦点が合わされていたが,現在その議論の中心は経済事業における各種不正腐敗の撲滅のほか,形式主義や保身主義,先例踏襲などの官僚主義の克服,経済制度における非合理的要素の除去などに移っており,市場メカニズムの活用をめぐる議論は内閣レベルで抑えられているのが現状である。

 制裁で世界経済へのアクセス確保が難しい中,北朝鮮は限られた国内資源の国家経済への動員や,「市場経済化」による「非公式経済」部門の拡大で深刻化した体制弛緩の立て直しなどに向けて経済に対する政治的統制を強めてきているが,一方で制裁下での経済発展を目指す上で市場メカニズムの活用が欠かせないことは論じるまでもない。今後,金正恩体制が「市場」と「統制」のバランス,すなわち「市場経済化」の副作用に対する「統制」をどのように図っていくのか,制裁下の北朝鮮経済を考察する上で注目すべき視点である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2082.html)

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