世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
現在のコロナウィルス感染症の対応策について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2021.02.01
菅義偉首相が自らの政策理念として掲げている「自助・共助・公助」と政府のコロナウィルス対応について,考えてみたい。最初に,これまでの経緯を簡単にまとめる。
日本は現在(2021年1月現在),感染の「第3波」にあるとされている。2020年春の第1波,2020年夏の第2波,そして現在は2020年晩秋から続く「第3波」の状態にある。第1波のときには全国に緊急事態宣言が発出され,現在の「第3波」では,感染者数が多い11都府県に緊急事態宣言が出されている。
もちろん,この間にも政府は様々な措置を取ってきた。三密と呼ばれる密閉,密集,密接の3つの「密」を避けるべく,市民,飲食店や事業者に様々な要請を実施してきた。しかし,これらの措置にもかかわらず,感染の抑止効果が限定的であることから,政府は2021年の通常国会で時短要請に応じない企業や入院拒否の患者への罰則などの導入を含んだ法改正を実施する予定である。これらの措置の強制性を高めて,感染の抑止効果をさらに高めようとすることは確かに重要である。
さらに,このコロナ禍で明らかになったことは,日本の医療体制の脆弱性である。日本は欧米諸国とは異なり,感染者数,入院患者数,死亡者数が桁違いに少ない。日本は感染者数が千人単位であるが,欧米諸国は万人単位である。それにもかかわらず,必要な医療が受けられない医療逼迫が叫ばれている。この対応も重要である。
この医療逼迫の要因について,民間病院と公的病院の連携不足,病院間の役割分担の不明確,医師やベッド数の不足や医療資源の配分の不適切など様々なことが言われている。
けれども,この問題に対する政府の対応や行動は鈍い。政府はコロナ病床確保のために,医師など医療関係者への協力を「要請」から「勧告」に強めるよう,感染症法を改正する方針を決めた。日本医師会など関係団体も調整に向けた話し合いを開始している。
以上から明白なのは,コロナウィルス感染防止に関して,非常に「自助」に依存している現状である。時短要請や入院や病院の患者受け入れの強化などは,基本的に関係する主体の行動を促す効果を期待して行っているものである。
コロナウィルス感染症は,公衆衛生上の問題であり,人々の生物学的な生存や健康に直結する問題である。首相の理念である「自助」の重要性も理解できるが,現在は緊急事態であるとすれば,国が全面に立って対応すべきである。つまり,「公助」に軸足を移すべきである。金融危機のときに,お金は経済の血液ということで,銀行を実質国有化して,金融システムの崩壊を防いだ。このときのように,政府は民間病院を実質国有化して,医療資源をコロナ患者に集中できるようにすべきである。緊急事態であるなら,その対応もそれに相応しいものである必要がある。強制的な手段を用いてでも,医療逼迫を緩和すべきである。
最も,これは非常手段であるので,コロナウィルスの感染が終息したら,金融危機と同じように,国有化された病院は民営に戻さなければならない。そして,次の感染症に備えて,医療逼迫にならない医療制度の構築に向けて,政府と民間の役割の見直しを含めて,議論されなければならない。
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