世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2032
世界経済評論IMPACT No.2032

危険なバイデン政権

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2021.02.01

 バイデン政権が出来たら,どのようなことに米国と世界はなるだろうか? まず閣僚人事から見てみよう。

 バイデンの国務長官候補ブリンケン氏はイスラエル系。国防長官候補オースティン氏は兵器会社関係の仕事をしていた時期がある。この人事に民主党極左は反発し共和党極右が歓迎している。「バイデン政権」が出来たら中東大戦が再発する可能性が高い。

 また国務長官候補ブリンケン氏とNSC担当補佐官候補サリバン氏はオバマ政権でバイデン氏の国家安全保障顧問を務め国連大使候補グリーンフィールド氏はオバマ第2期中は米国国務次官補を務めた。つまり「バイデン政権」は第3期オバマ政権。同じ過ちを特に対中関係で繰り返すだろう。

 「バイデン氏のチームは,制度とグローバルな同盟に対する彼の信念を反映」つまり官僚的な硬直した政治をするということだ。それとトランプ氏は命懸けで闘い多くの国民の支持を得たというのに。

 バイデンの首席補佐官候補クレイン氏は多くの大企業のロビーストを務めて来た「沼地」の守神。それで今の民主党の穏健派と左派の調整なんて出来るの?

 11月15日,トランプ政権は国防省政策委員会の大幅な人事刷新を行い,キッシンジャー,オルブライトといった民主党系の親中派11人を解任した。その後釜には真性保守のギングリッジ元下院議長や,ボスニア上空で撃墜された元空軍戦闘機パイロットのオグレイディ氏が内定。ボスニア戦争を始めたオルブライトの国際組織ASGにはバイデンの国連大使候補グリーンフィールドその他数名がメンバー。この組織には中国利権の噂がある。

 またNSC担当補佐官候補サリバンはイラン核合意交渉にとって極めて重要な人物だった。やはりバイデン政権が出来たら中東で何か大事が起きるのではないか?

 さらにサリバンは以前,中国政権が米国への負債1兆ドルを帳消しにする代わりに,米国が台湾への軍事支援を放棄すべきだという考えを支持している。

 バイデンはイエレンを財務長官に,タンデンは行政管理予算局長に選出。2人とも金融緩和,積極財政論者なのでMMT等を信奉する左派に受け入れられると考えられたが,タンデンはヒラリーの子分なので党内左派も共和党も絶対反対しそうだ。何れにしろMMT的政策は,バイデンの本性と噛み合うだろうか?

 バイデンは郊外の上級中流階級の票を大量に得たので彼が大統領になれば民主党極左の考えとは違い富裕層減税を行う可能性がある。

 またバイデンがケリーを内閣の「温暖化問題調整官」として選んだことで,バイデンはオカシオ・コルテス議員の費用のかかるグリーンニューディールへの強力な支持を示した。彼らの環境政策は,温暖化問題解決が重要だと考えている専門家の間でも,行き過ぎで却って世界経済を破綻させるという意見もある。このままでは世界が終わる。

 さらに米国の核戦力をアップグレードするための連邦政府の1.2兆ドルのプログラムは,バイデンによって危機に瀕しており,バイデンはトランプ氏が苦労して作った米国がワシントン既成勢力の反対で中国より遅れてしまった宇宙軍の廃止まで検討している。

 バイデンは貿易緊張を和らげ中国に国際ルールを遵守する圧力をかけるため米国の同盟国と協力する意向。彼は中国を怒らせた輸入鋼とアルミニウムのトランプ政権の関税を撤廃できる。G20で習近平と会談も出来るーこれでは習近平に甘く見られる。

 このままでは本当に世界が破滅させられる!!! しかし救いがない訳ではない。

 中東で再び何かしようとしても「永遠の戦争」に疲れた人々を納得させられるだろうか? やはり苦労して撤退したトランプ氏が正しかったことになるのではないか?

 またパリ協定に復帰したいようだが中国に甘すぎる同協定への復帰は反中感情が高まった今の米国では簡単ではない。TPPにも復帰したいようだが,これも国内の労組や党内左派が,グローバル経済による雇用喪失等を心配しているため,やはり簡単ではない。

 そしてトランプ政権は裁判で選挙結果を引き伸ばしている間に「中国人民解放軍」が事実上経営するか,密接な関連のある中国企業を名指しして,米国人ないしは米国企業の投資を禁止した。また昨春以来すすんでいる中国企業の会計検査を急がせ,上場資格が不的確な中国企業の上場廃止を促進する。これは非常に細かい規則なので,アメリカ国内の反中可能とも相まって,バイデン政権になっても,逆行させるのは難しいのではないか?

 そして5G通信での中国との分離と,QUAD(日米豪印の軍事協力)は,政権が替わったとしても変更するのは,アメリカの世界戦略からして不可能だろう。

 QUADのような存在とNATOを合体させるという話は,20年も前から専門家の間で本気で議論されている。5G通信に次ぐ6G通信の開発で日本が米国に協力できる余地は幾らでもあるのではないか?

 こうして見ると今後の日本は,トランプ氏が退任したとしても,トランプ氏のレガシーに縋って,生き残る道を探るしかない。少なくとも,われわれ日本人は,トランプ氏から受けた恩や,彼の政策で参考に出来ること(移民や官僚主義への反対)を,決して忘れてはいけないのではないか?

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2032.html)

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吉川圭一

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