世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2011
世界経済評論IMPACT No.2011

農産業の振興に向けた異分野間連携の促進:兵庫県養父市の取組み

川端勇樹

(中京大学経営学部 教授)

2021.01.11

養父市の農産業の状況

 兵庫県養父市は同県北部に位置し,人口23,000人程度,高齢化率は38.28%と高い。人口は減少し続け高齢化率も上昇している。同市の農業は,朝倉山椒,米,高原野菜,日本酒等の特産物があるが,1960年と比較して農家数は約4割,耕地面積は約5割となり,特に耕作放棄地の増加が看過できないほどになっていた。さらに,農業従事者の高齢化も進み後継者問題が生じている。このような厳しい状況に置かれているが,養父市にとって農業は「食材の供給源であると同時に地域コミュニティや伝統文化の源である」との認識から,市長のリーダーシップのもとで農業の振興策が進められてきた。

国家戦略特区の指定と農産業振興への取組み

 このような状況において国の規制緩和の提案の求めに対し,養父市は農業分野における申請を決定し2014年に国家戦略特区に採択された。同事業は,国家戦略特区を地方創生に活かす方針を打ち出した政府と市長の意向も踏まえ,国家戦略特区と地方創生を一つにまとめ,国・県・関係機関等との連絡・調整および特区事業者との連絡を担う国家戦略特区・地方創生課が新設され展開されている。

 同特区の指定により,耕作放棄地の再生や農地流動化のための事務処理期間の短縮が可能となる農業委員会と市の事務分担,農業生産法人の要件緩和や企業による農地取得の特例等を活用し,民間事業者との連携を通した農業の構造改革による輸出も可能となる農産物・食品の高付加価値化に向けた新たな農業のモデルの構築に取組んでいった。ここでキーとなるのが,域内外の産学と地元の農業者等が異分野間連携による6次産業化を推進して農産業の振興に向けた新たなビジネスを創出していくことである。

 この実現に向け,養父市では国家戦略特区・地方創生課を中心に他部署や兵庫県のサポートも受け以下の施策に取り組んだ。まず,参入希望者の公募に加え,市長を筆頭に既存のネットワークも活用しながら有望な企業にアプローチし6次産業化に向けた事業推進について勧誘した。第二に,関係者がやりとりをする場として,参入企業をはじめとする関係者間の情報共有を目的とした意見交換会議を年ベースで実施している。同会議では,市や県が目指すことや事業者への要望について全体で共有するとともに,参入企業が事業推進における課題や苦労について発表し,意見交換・互いにフォローすることや具体的な対応策の提案や協議を実施しており,これらを通して参加企業が販路を確保するような事例もみられるようになった。さらに,同会では補助金メニューの情報共有,経営計画作成のためのセミナー,人材確保やそのための地元高校との連携についての議論,各事業所の見学も行われている。最後に,異分野間連携に向けたマッチングを直接的に促進するための働きかけとして,必要ベースに応じて市の職員が,参入事業者とのやりとりで把握した事業に関連する問題や開発した商品に対応して企業等を紹介し商談の場をセッティングすることもある。また,事業者の資金繰りの問題に対して養父市商工会への打診や,農作物の育成上の問題に対して市の専門施設に対応させるための調整をするケースも存在する。さらに,地域にゆかりのない参入事業者に対して市内でアクセス可能な農地の案内やその条件を説明し,農業者とのマッチングについては地域の慣習等を踏まえたうえで調整をしながら推進している。

 以上の取組みにより,農業レストランが設置され,企業による農地取得(51.1ha)が進み,農業関連の特区事業者として13社(市外から11社)が参入した。これらの法人は6次産業化に向けた付加価値向上とコスト削減に取組み,市の支援も得ながら製販の複数企業・商工会・大学が連携して新商品の開発・販売に至った事例もみられる。結果,現在ではパフォーマンスの上位約3割の企業が黒字を計上し,またこれら法人は耕作放棄地の解消にも寄与し,現在では雇用創出が約100名・売上が2億6,500万円となっており,今後も成果は増大していく見込みである。

養父市の経験からのレッスン

 養父市では,地域の状況(初期条件)を踏まえて関係者間で農産業振興への意識を醸成し,中山間地域における6次産業化による農産業の高付加価値化という具体的な目標への実現に向け,異分野間連携を核とした施策を推進していった。具体的には市の担当部署を中心に関係者を巻き込んだ推進体制で,事業化に向けた連携のための参画者の招集,やりとりする場の創出,参画者の動向や事情を踏まえたうえでの連携へのマッチングや調整を実施した。以上については自治体以外の主体が推進するケースも考えられるが,地域における新産業の振興に向けた異分野間連携による事業創出へのアプローチとして示唆に富む取組みである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2011.html)

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