世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1985
世界経済評論IMPACT No.1985

マレーシアでシェア20%台を回復したプロトン:吉利はASEAN自動車産業に地殻変動をもたらすのか

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2020.12.21

 2020年は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大によりASEANの自動車産業は大きな打撃を受けた。ASEAN自動車連盟によると,ASEANの自動車販売は4月に前年同月比81.3%の大幅な減少となった(注1)。4月を底に緩やかに回復しているが,1月~9月で前年度同期比35.7%の減少となっている。生産は4月に前年同月比84.6%の減少となり,1−9月では39.1%の減少である。

 マレーシアの自動車販売は4月に99.7%減,生産は100%減と停止状態となった。その後回復に向かい,6月以降の販売は前年同月比で増加しており,9月は前年同月比26.4%増である。生産も8月から増加に転じた。1−9月では販売は22.9%の減少,生産は25.8%の減少である。マレーシア自動車工業会は,2020年の登録台数を47万台,前年比22.2%の減少と予測している。

 2020年で注目すべきことは,中国自動車メーカー吉利の傘下で経営再建中のプロトンがシェアを拡大したことである。プロトン社によると,1−11月の販売台数は96,410台で前年比7.5%増となっており,市場シェアは20.1%である。プロトンは2014年にシェア2割を切っており,2割に回復するのは6年ぶりとなる(注2)。

 1983年に設立された第1国民車メーカープロトン社は,1980年代には6割を超える市場シェアを誇ったが,2002年に5割を割り込んで以降下落が続き2018年には12.1%に落ち込んだ。マレーシア政府は外資による経営再建を進め,2017年にプロトンの49.1%の株式を中国自動車メーカー吉利自動車に売却した。吉利は2018年からプロトンの経営再建を積極的に推進した。2018年12月に吉利のSUV「博越」をベースとするX70を市場に投入し,2019年に入ると多くの車種で新型モデルを発売し販売網を強化した。こうした再建策が奏功し2019年の市場シェアは前年の10.8%から16.6%に回復,2000年代に入ってからの長期低落に歯止めがかかった。

次の課題は輸出

 マレーシアは,タイ,インドネシアに続くASEAN第3位の自動車産業国である。マレーシアの自動車生産台数は20世紀末まではタイに並んでいたが,2019年にはタイが200万台に躍進したが,マレーシアは57万台と3倍を超える差がついている。とくに輸出はタイ105万台に対しマレーシアは3万台と大差がついてしまった。ASEANの自動車産業は「タイの成功 マレーシアの失敗」と形容されるが,その大きな要因は輸出産業化の失敗である(注3)。

 プロトンの2019年の輸出は1000台に過ぎないが,10か年計画ではASEANでのシェア10%を目標に掲げており,輸出比率を25−30%とすることを目指している。プロトン社によると2020年8月にケニアにサガがCKD輸出され,ブルネイにX70の輸出が始まっている。2020年の輸出は前年比10.6%の見込みであり2021年にはパキスタンでCKD生産が始まる予定である。マレーシア国内市場で経営再建に成功したプロトンの課題は輸出である。日本企業が8割を超えるシェアをもつASEAN市場で中国自動車が成功できるかは輸出の成否が鍵を握っている。前途は遼遠かもしれないが,吉利自動車のマレーシアでの成功がASEANの自動車産業の地殻変動を起こし始めたとことは確かである。

[注]
  • (1)ASEAN Automotive Federationの統計による。
  • (2)プロトン社プレス・リリース。
  • (3)リチャード・ボールドウィン(2018)『世界経済 大いなる収斂』日本経済新聞出版社,309−314頁。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1985.html)

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