世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1960
世界経済評論IMPACT No.1960

これからのデジタル社会と問題点

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2020.11.30

 これまで経験したこともない「新しいデジタル社会」を迎えることになる。デジタル社会は「第4次産業革命」と言われている。デジタル社会はバラ色の社会ではない。原子力技術社会のように,平和利用の原子力発電もあるが人類を滅亡させるような原子爆弾,原子力発電炉のメルトダウンもある。これまでの「第2次産業革命」,「第3次産業革命」とはわけが違う。これから80年先,21世紀におけるデジタル社会「第4次産業革命」はまだ誰もその本当の姿を見ていない。これをどうデザインするかである。

 現在のネット空間で,いろいろの企業が「インフルエンサー」という「殺し屋」にお金を払って彼等に都合の良い情報を世界に拡散し,儲けようとしている。現在のウエッブサイトは平均100日で内容が変わると言われている。何者かにより意図的に情報が削除されたり改竄されたりもする。

 エストニアは,1990年から「E-ガバメント」でデジタル化を進めていったが,大変苦労した。2007年エストニアはロシアによる大規模なサイバーアタック:DDos攻撃にあい,政府や金融機関がやられた。更にWebサイトの改竄,大量のジャンクメール送信などでエストニアの一般企業やメディアも大きな被害を受けた。

 オハイオで起きた殺人事件の動画がフェイスブックに投稿された事件で,不適切な動画の投稿が問題になっている。フェイスブックによると不適切動画コンテンツについて利用者からの通報は毎週数百万件あるという。これを人海戦術で対処しているという。

 GAFA(グーグル,アマゾン,フェイスブック,アップル)が全世界のデータを独占し,民主主義を錯乱させ,国民から富を吸い取っていると言われている。GAFAは世界のコミュニケーションを盗聴し盗み見,データを独占し,データの分析,囲い込み,情報検索,電子取引,ソーシャルメディアの枠を超えて,経済の取引,医療,金融,保険,教育というあらゆる分野に入り込んでいる。

 GAFAのシステムは,消費者を監視していろいろの情報を収集分析し,人間の行動の先読みをすることで,利益を上げる「監視資本主義」にしている。GAFAなどのプラットフォーマーは,無料のネットサービスを通じ利用者から膨大なデータを収集し,使えば使うほど他のサービスに移りにくくする「ロックイン」をかける。優越的地位を乱用して,値下げ攻勢で競合を排除し,その後に価格を吊り上げる「略奪的価格」戦略が実行されている。

 「ソーシャルメディア」は人々を繋ぐはずのものだった。2011年の中東や北アフリカの民主化運動「アラブの春」は,自由をもたらす原動力になると歓迎されたが,実際はプライバシーを侵害し,プロパガンダを拡散し,民主主義を蝕んでしまった。

 ネットを通じて単発の仕事を請け負う「ギクエコノミー」は便利かもしれないが,不当に安い賃金で人を使い,格差を広げっていった。AI(人工知能)は先入観や偏見を固定化し,人間の仕事を脅かし,独占者たちを支えるものとなっている。

 金融工学に基づくアメリカの金融商品には数学的な嘘があることが指摘されていた。リスクを覆い隠すような「アルゴリズム」が仕組まれている「詐欺的商品」である。住宅などでの「サブプライムローン」で,複雑なアルゴリズムで「不良債権」を細かく砕いて,他の債権と組み合わせ,不良債権だと分からないようにして売りつけ,国民大衆の富を奪った。

 中国のように借金の返済歴や普段の振る舞いなどのデータを組み合わせて点数をつける「社会信用システム」では,個人はだんだん社会での生き方が制限される。「気に入らなければ,点数が上がるように努力しなさい。努力しないのは自己責任だ」とする。肥満や糖尿病を表示し,これはあなたの恥ずべき生活のためと言い,ダイエット商品,スキンケア商品,美容整形を売りつける。

 インターネット上では,何が正しい情報か,何がフェイクニュースかは一般の人には分かりにくい。「いいね」や人気があることと正しいこととは違う。しかしそれがなかなか判別できない。こうしたもので人に気付かせないで,人々の意識をあるところに誘導する。これが中国の仕掛ける「超限戦」,「サイレント・インベージョン」で,サイバースペースでも展開されており,中国は日本にもこれで侵略してきている。

 アメリカ司法省は,独占禁止法に基づき,グーグル,フェイスブックなどを企業分割しようとしている。しかしこのデジタル社会の問題はGAFAを分割して解決できるものではない。デジタル社会の社会技術構造とビジネスの在り方,新しい社会倫理の問題である。

 こうしたデジタル社会の問題にたいして,いろいろの国が動き始めている。

 カナダ・トロント市の湖畔エリアに「スマートシティ」のプロジェクトがスタートした。グーグルのサイドウオーク・ラブス社が計画を進める。道路や信号機などに無数の監視カメラやいろいろのセンサーを設置し,道を行き交う人や自転車,自動車などのすべての動きをデータ化する。店舗の中の人の動きもすべて記録される。ところがこの計画に対して,そのデータが悪用される恐れがあるという声が出て,もめており,このスマートシティに住みたいと手を上げる人がいない。日本にもスマートシティ・プロジェクトがあるが,個人情報をどう扱い,どういうシティを創るかの明確な構想が無いのでなかなか進んでいない。

 ドイツのメルケル首相は欧州に「デジタルエコシステム」を構築しようとしている。資本主義国においては公的な監視と透明性を確保し,国民の信頼感を高めることができれば,生産性の拡大,イノベーションを生み出す可能性があるとして,検討しているようである。

 台湾政府は,かつてハッカーであったオードリー・タンをデジタル担当政務委員にして「分散化技術」で,「分散型台帳」や「重みづけ投票」といったオープンソースのオンライン・プラットフォームを利用して台湾に参加型民主主義を広めている。台湾市民の半数以上がオンライン・プラットフォームを通じてデジタル統治に参加している。これでコロナ対策の情報伝達を徹底し,台湾はコロナ禍を旨く管理している。台湾市民は,法案の策定に参加するだけではなく,政治家の発言の内容が事実かどうかもチェックしている。また公共の課題に対する革新的な技術解決策を生み出すことを目的とした当局主催の「総統杯ハッカソン」にも参加者が集まる。台湾には,中国から偽情報に晒されているが,台湾は「分散化技術」で,偽情報を処理している。

 アメリカのコロラド州議会のクリス・ハンセン議員は,下院歳出委員会の委員長を務めていたころ,4000万ドルの予算に対して提案された100以上の案に対してどのように予算を割り当てるかを決めるとき,「重みづけ投票」を使い迅速に答えを導き出した。

 EU連合は,アメリカのサイバーネットワークと中国の監視ネットワークとは別のAIに関する新たな倫理的枠組みを創ろうとしている。FTC(米連邦取引委員会)はIT大手による過去の企業買収を再調査すると言っている。欧州委員会はEU競争法でアマゾンを調査している。アマゾンが出展企業から販売情報などを吸い上げて,勝手に自社の販促に使う「データ搾取」の嫌疑である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1960.html)

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