世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1955
世界経済評論IMPACT No.1955

エネルギー移行期における石炭技術の役割

橘川武郎

(国際大学大学院国際経営学研究科 教授)

2020.11.23

 9月5日は,クリーン・コール・デー,石炭の日である。通商産業省(現在の経済産業省)の呼びかけに日本石炭協会,電気事業連合会,日本鉄鋼連盟などが協賛して,1992年に制定された。9月5日が選ばれたのは,「ク(9)リーン・コ(5)ール」の語呂合わせだと聞く。

 クリーン・コール・デーに前後して,毎年,国際シンポジウムが開かれる。今年も,9月8~10日に,JCOAL(石炭エネルギーセンター)主催の第29回クリーン・コール・デー国際会議が開催された。コロナ禍の影響でWeb形式による運営となったが,日本からのほかに,中国,インド,インドネシア,アメリカ,世界石炭協会(WCA),東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA),アセアン・エネルギーセンター(ACE)からの報告・発言もあり(登壇順),例年通りの盛り上がりをみせた。

 今年の会議のテーマは,「エネルギー移行期における石炭/CCT(クリーン・コール・テクノロジー)の役割」であった。「エネルギー移行期」とは,使用時に二酸化炭素を排出しないエネルギーへの転換を進める時期という意味であるから,テーマにこの言葉が含まれていること自体,今年の国際会議が石炭に対する厳しい逆風下で開催されたことを,端的に示している。

 この会議の2ヵ月前の今年7月には,梶山弘志経済産業大臣(当時)が記者会見を行い,非効率石炭火力のフェードアウト方針を打ち出した。同方針をめぐっては,それをスクープした新聞記事が「非効率石炭火力の9割休廃止」と伝えたこともあって,あたかも日本政府が,「ストップ・ザ・石炭」の方向に政策転換したかのような印象が広がった。しかし,それは誤解であり,現実には梶山経産相の真意は,「高効率石炭火力は使い続ける」という点にあった。記者会見と数日違いで,Jパワー(電源開発(株))の竹原新1号機(広島県,60万kW),鹿島パワーの鹿島2号機(茨城県,64.5万kW)という大規模高効率石炭火力があいついで営業運転を開始したことからも,この点は確認できる。非効率石炭火力の休廃止自体は,2018年に閣議決定された第5次エネルギー基本計画でも繰り返し言及されており,梶山発言は,石炭火力に関する政策転換を意味するものではなかったのである。

 ただし,政策転換でないにもかかわらず,それを転換ととらえる誤解が広まってしまったのは事実であり,そのことは,脱炭素への流れのなかで石炭火力への逆風がいかに強いかを示唆している。この逆風にいかに対処していくのか…それが,今年のクリーン・コール・デー国際会議のテーマであった。

 会議では,世界的に脱炭素への移行が進展するのは不可避との認識に立ったうえで,実際には,石炭火力を主力電源とする移行期は,しばらく続くという見解で一致した。今日なお,世界の電源別構成比で最大のシェアを占めるのは石炭火力である。アメリカや中国が10~15ポイント低下させたにもかかわらず,世界全体では石炭火力の比率は,2010~17年に2ポイントしか下がらなかった(41%→39%)。2000~16年に世界中で未電化人口は12億人減少したが,その電化を担った電源の71%は,石炭を中心とする化石燃料を使用していた。移行期がしばらく続くのだとすれば,その間に使用する石炭火力の二酸化炭素排出量をいかに抑制するかが,地球温暖化対策の焦点の一つとなる。この点で最も効果的な方策は,高効率石炭火力やCCS(二酸化炭素回収・貯留)などのクリーン・コール・テクノロジーを,世界の隅々に普及させることである。さらに,CCU(二酸化炭素回収・利用)の技術開発が進めば,移行期終了後も石炭利用が可能となる。このように結論づけた今年のクリーン・コール・デー国際会議は,エネルギー移行期におけるクリーン・コール・テクノロジーの役割を再確認する場となった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1955.html)

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