世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナ危機のグローバル価値連鎖への影響
(帝京大学 元教授)
2020.11.16
ハブとしての大都市圏メトロポール
ハイパー産業社会に到達したメトロポール大都市圏では世界規模で意思決定をする拠点統括本部の立地する都市はハブ機能を発揮して本社以外の世界の多くの都市を自転車のスポークの車輪のように統括制御するようになった。このような考えは米国の物流企業フェデックス創業者のフレッド・スミスが提唱した一種のビジネス生態系たるエコシステムである。通常,ハブ(hubs)都市は結節網を通じて「パワー法則」に沿って第1位都市と2位,3位との間で引き寄せ効果によってその地位とパワーを強化する。そこではグレープ房状数幾何級数的に中間物流点さえも減少していくとされる。これは米国の理論物理学者バラバーシ・アルベルト(A.Barabasi)の唱えた細胞内化学反応からヒントを得た新ネットワーク思考である。
事例として大都市圏メトロポールの空港では,FedexはMenphisでは郵送を集約して中間物流の地点を大幅に減少させている。世界規模で物流インフラが整備されている港湾都市であるアムステルダム,ロッテルダム,アントワープ,ハンブルグ,スイスのバーゼルはホフマンラロッシュ,ノヴァルティス,アクテリオン,ロンザなど製薬企業,研究機関,大学などが集結することによって世界的な産業ハブ競争のトップに立っている。このほか,ドバイはアジア,中近東,欧州,アフリカの戦略的中継ハブ都市国家として世界における中東の金融のみならずコンテナ輸送のハブにもなっている。その結果としてグローバル・スーパーマーケットがドバイに誕生している。
世界銀行が2009年に大きな方向転換を行い新地理経済学を導入することによって都市の重要性を認知した。メトロポール都市はグローバリゼーションとネットワークの相乗効果を通じて世界の中心拠点都市として周辺世界に属する他の都市を序列化し,国内都市を地域内だけのネットワークに矮小化してしまった。多国籍企業にとっては国内の周辺との結節は世界の周辺地域市場に取って代わってしまった。ドバイ,シンガポール,アイルランド,バルト諸国,スイスなどの都市の興隆と成功はメトロポール大都市圏の発展をベースにして「漁夫の利益」を得た結果であるとも指摘されている。
企業ネットワーク
多国籍企業はドナルド・コースの取引コスト論に即して言えば,企業は今後,自社からアウトソースする業務と,逆に自社内部に取り込む業務の選別を一層迫られるであろう。それをグローバルな取引においてバリューチェーンの見直しをするなか,オッフショアリングとグローバルソーシングをどのように使い分けられるであろうか。難しい課題である。世界貿易開発会議(UNCTAD)の調査で約7万の多国籍企業は87万の海外子会社,関連する多くの提携関係などを通じて世界貿易の70%,海外直接投資額6兆6000億ドル,雇用者数5400万人を事実上,支配している。今回のコロナ危機という未曽有のショックによってバリューチェーンの繋がりに断絶が生じてグローバル取引は大きな悪影響を受けるとの論調が見受けられた。
フランス国際関係研究所(IFRI)東アジア研究主任アリス・エクマン(Alice Ekman)は「コロナ危機は中国の野望を実現させるとき」と題する論文のなかで中国版スマート・シティを世界に広げようとする意味を問いかけている。同女史によるとそれは3段階を経て進められている。
第1の焦点は中国依存の価値連鎖だが,まずよくその交替として取り上げられるインドが中国に取って替わるだけの段階に達していない。中国に替わる国として東南アジアのいくつかの新興国やオセアニアの国が挙げられている。同時に中国自身が日本やドイツに頼っていた素材や中間財の内製化を急ぐ方向になってきた。第2はハイテク技術を巡る米中のデカプリングが一層,明確になる。デジタル技術などの世界的標準や基準については地政学的リスクの問題が避けられず,米国に次いでフランス,ドイツ,英国を中心に中国企業締め出しの動きが相次ぐようにたってきた。第3に新地理経済学(NEG)によれば企業立地の決定因子は物流インフラ,市場アクセスなどのP. クルーグマンが求心力として位置付けた因子,すなわち産業集積度などの技術経済外部性などの全要素生産性が産業立地を決定してきた。今後は製造業中心のスマイルカーブは時代遅れになると指摘している。産業構造の変化に伴い従来の製造業中心のバリューチェーン全体がIT化やIoT化のなかで研究開発やデータ解析をもっと包含したアップストリームからダウンストリームまでの価値連鎖にレベルアップする必要がある。
[参考]
- Alebert-Laszlo Barabasi,Reka Albert, Emergence of scaling in randon networks, Science 286, 1999
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