世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
高まる地銀再編:もう長い名称はやめませんか
(東北学院大学 教授)
2020.11.02
本年9月に菅政権が発足し,地銀再編の機運が高まっている。菅首相は官房長官時代から地銀再編論者として知られ,首相就任後も地銀再編を地域経済の持続可能性を高める有効な政策課題として位置付けている。本年11月には地域銀行同士の統合・合併を独占禁止法の適用除外(適用期間は10年)とする特例法が施行されるが,個人的には菅首相の出身地の地銀2行の動向が気になるところではある。
一般に銀行の経営統合方式としては,①共同株式移転による持株会社の設立,②株式交換による子会社化,③合併の3つがある(高澤美有紀「地域銀行の経営統合をめぐる論点」『調査と情報-ISSUE BRIEF-(1,076号)』国立国会図書館)。地域銀行の経営統合の多くは持株会社方式がとられており,現在,16の持株会社が存在している。なお持株会社の設立は,主に広域統合型(例:ほくほくフィナンシャルグループ(FG)),隣県統合型(例:九州FG),県内統合型(例:第四北越FG)の3つに分類できるが,本年10月に設立されたひろぎんホールディングス(HD)のように,他行との経営統合を伴わない形(証券子会社といった関連会社のグループ化)での持株会社化も今後拡がっていくと予想される。
銀行合併の効果
これまで持株会社方式による経営統合が広く選好されてきた背景には,合併に比べて支店統合やシステム統合に要する時間・費用が小さくて済むことが指摘されているが,菅首相のこれまでの発言内容(「地方銀行について,将来的は数が多すぎるのではないか」)や金融庁の見解を聞く限りでは,今後地銀に求められる経営統合は,持株会社方式ではなく合併であることは明白である。
合併による経営統合は,他の統合方式と比較して経費削減効果が最も大きいとされる一方,当該地域における金融サービスの寡占を生じさせ,それによって金融サービスの低下につながる可能性がある。本年10月に誕生した十八親和銀行が,当初の計画から2年半遅れで合併に至った背景には,寡占化の弊害を懸念した公正取引委員会の企業結合審査が長期化したことにあることは周知の事実である。
銀行の競争環境は,銀行経営の安定性や効率性,利用者の金融サービスへのアクセス性などに影響を及ぼすと考えられる。1990年代以降,数多くの理論研究や実証研究の蓄積が存在しているが,未だ明確な結論には至っていない。例えば中小企業向け貸出について,競争的な貸出環境にある銀行ほど貸出を増加させるとする研究がある一方,合併等により貸出環境の競争度が低下した銀行ほど収益性が改善し,その分貸出を増加させるという研究もある。つまるところ合併によって銀行の競争環境がどの程度変化し,そのことがどのような影響を生じさせるかは,実際に合併してみないと分からないというのが実情である。
誰のための対等合併なのか
来年1月には新潟県の第四銀行と北越銀行による県内合併が,また同年3月には三重県の三重銀行と第三銀行による県内合併が予定されている。今後,地域銀行同士の合併,もしくは異業種との合併が増えると予想されるが,問題はどのような形で合併を行うかであろう。
1990年代中葉以降,日本企業同士の合併が増加しているが,吸収合併が大半を占める海外と比べて,我が国の合併は対等合併が多いことが特徴として挙げられる(その実態はさておき)。銀行業界はその最たる例であり,そのことは旧銀行名のつなぎ合わせで新銀行名が決まることからも分かるが,そこまで対等合併にこだわる必要があるのだろうか。企業合併に関する多くの実証研究では,特に日本企業の対等合併において,合併後の社内での主導権争いの激化によって逆に経営効率性が悪化することが示している。
今後,地域銀行の合併が行われ,お決まりの新銀行名を見たとき,期待よりも不安を感じざるをえないだろう。果たして誰のための対等合併なのか。銀行経営者のための合併にならないことを願うばかりである。
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