世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1862
世界経済評論IMPACT No.1862

ポスト・コロナの大学教育改革:秋入学(ギャップ・ターム)導入の必要性

岩本武和

(京都大学経済学研究科 教授)

2020.08.31

 新型コロナウィルスは,教育にも多大な影響をもたらし,筆者が生業とする大学教育も激変した。どこの大学でも同じはずだが,3月の卒業式も4月の入学式も中止,GWまでの3週間分の授業は休止となり,その間,教員は,(1)弊学独自の学習支援サービスを使って,動画教材の作成や,(2)演習のような少人数クラスに対応したZoomという会議システムに慣れることに充てられた。もちろん,教授会をはじめとする全ての会議も,Zoomで行われることととなった。何もかもがオンラインに切り替わった。

 こうしたオンラインに対するインフラが整備されていた教育機関と,整備が遅れていた教育機関とでは,大きな格差が生まれたはずである。その格差は,大学間格差だけでなく,私立・公立の高校・中学間格差として,今後「コロナ世代」と呼ばれて,顕在化するかもしれない。

 ところで,見送りが決定されたので,今ではまた議論が下火になったが,コロナを契機に「秋(9月)入学」の議論が再燃した。本webコラムでも,熊倉正修教授(明治学院大学)が,「九月入学への移行は本当に必要なのか」(2020年6月1日)において,明確に反対の意見表明をされている。ただ筆者の場合は,学年歴を含めた日本の全ての年次歴を半年ずらせるのではなく,大学の学年歴のみを半年遅らせて,秋入学・秋卒業にすればよいと考えている。つまり,大学だけが,入学と卒業を半年遅らせることに大きな意義があると思う。

 春の高三卒業後,秋の大学入学時までの半年間は,「受験勉強」に特化(高三年生の1年間の受験勉強から解放して,高校3年間は部活も含めて目一杯高校生活を満喫),秋の大学卒業後,春の入社までの半年間は,いわゆる「ギャップ・ターム(ギャップ・イヤー)」として,もちろん就活なり,あるいは短期留学やワーキングホリデー,ボランティア活動など,武者修行すればよい。「グローバル・スタンダードに合わせて,留学の送り出しと受け入れをしやすくする」というのは,結果であって,目的ではない。むしろ,ギャップ・タームを設けていないことの方が,グローバル・スタンダードに合っていないはずだ。

 日本の大学は,入口(入学)と出口(卒業)だけが厳格に管理され,入ってから出るまでの4年間は「放し飼い」という悪弊が相も変わらず続いている。こうした慣行には,学生が卒業してから入る企業側も,大きな共犯者だと思っている。つまり,大学で何を勉強したかには関心が無く,むしろ余計なこと(役に立たないこと!)は勉強して欲しくないようで,どの大学に入学=卒業したかが,採用に当たっての重要事項となるらしい。国公立大学が法人化される以前と比べれば,格段に良くなったとは思うけれども,上記のようにまだまだ改善すべき点は,多く残っている。秋入学は,それらのいくつかを一挙に改善できるビッグ・バンになりうるかもしれない。

 多くの文科系の学部学生は,三年次で要卒単位を揃え,四年次は「就活+ギャップ・ターム」として機能しているはずだ。ほとんどの人が,こうした現状を「文系は三年生までに単位を揃え,四年生では遊んでいる」と眉をひそめ,これを回避するためにCAP制(年間で取得できる単位の上限を定める)を導入するという,本来のCAP制が持つ役割(学生が科目ごとの予習・復習時間を確保する)とは異なった機能を持たせている。「高三=受験勉強」と「大四=モラトリアム」の2年間は,本来の勉学期間としては機能していない。この実質的に2年間を機能させるため,高三後の半年と,大四後の半年,計1年間のギャップ・タームを設けることが,何ほどのロスタイムであろうか?

 日本の大学のランキングは下がり続け,大学が生産する労働力の生産性も下がり続けている。思うに,日本の大学ほど,入学(受験)に教員も学生もコストをかけ(何故そのコストを入学後に配分できないのか?),卒業にも「4年間在学」という硬直的な制度を採用している国(先進国)は,珍しいのではないか。各大学がほんの僅かな差別化入試に資源を割き,4年間は放し飼いにして,金太郎飴ばかり生産している姿は,30年以上も前の筆者の青春時代と何ら変わらぬ陳腐な風景である。書店の棚から,都道府県別の地図よりもバラエティの多い「赤本」を一掃しよう!

 日本ほど「受験産業」に優れた資源を配分し,研究と教育のプロであるべき大学教員を「入試業務」に専念させている国も稀ではないか(歪んだ資源配分!)。有能な受験産業のプロに,入試業務を委託して,入試は徹底した資格試験化し,個別大学での個別入試は,複数の専任教員を貼り付け,入試に関して一切の権限と責任を持った「アドミッション・オフィス」(AO)で全てを行う。

 卒業に関しても,「3年次卒業(早期卒業・飛び級)+大学院修士1年化」,「3年次半卒業+1年ギャップ・ターム」「4年次卒業+半年ギャップ・ターム」,「5年次卒業+メジャー(主専攻)・マイナー(副専攻)選択」…といった弾力的かつ多様なカリキュラム・卒業メニューがあってよいはずだ。制度設計はいろいろあるはずだが,メニューの多様化に応じて,前後半年のギャップ・タームが,大切なゆとりになるはずである。入試+就活のコスト減,入試負担の軽減による浪人生の減少,何よりも,金太郎飴ではなく,高齢化社会に応じて生産性の高い多様な能力をもった大学(院)生等,歪んだ教育資源の配分を検討することは,コロナ後の教育改革に含められるべきと強く思う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1862.html)

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