世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
エネルギー基本計画改定のチェックポイント
(国際大学大学院国際経営学研究科 教授)
2020.08.17
今年7月,ほぼ10ヶ月ぶりに総合資源エネルギー調査会基本政策分科会が開催された。来年へ向けて本格化するエネルギー基本計画の改定(第6次計画の策定)へ向けたキックオフの会合でもあった。
経済産業省資源エネルギー庁の事務局が準備した配布資料は,コロナ禍をふまえたエネルギー情勢の変化にも言及しており,例によって,定性的な記述としては説得力が高いものであった。ただし,本来議論すべき論点,第5次計画が維持した2030年の電源ミックスが抱える様々な問題については,正面からそれに取り組む姿勢を確認することはできなかった。
まず,原子力について。2018年度の電源構成に占める原子力の比率は6%。2030年20~22%を達成するには,30基が80%稼働することが必要とされるが,その見通しはまったく立っていない。
原子力は,2050年時点でも「実用段階にある脱炭素化の選択肢」として重視されているが,リプレースなしでは,現存する33基をすべて60年運転延長したとしても,60年には5基しか残らない。これでは,とても長期的な選択肢とは言えない。今回の事務局報告もまた,原子力のリプレースへの言及を避けていた。
いまだに核燃料サイクル一本槍の使用済み核燃料処理政策。「もんじゅ」廃炉以降,プルトニウムの消費はプルサーマルに頼るしかないが,再稼働したプルサーマル炉は3基のみ。電気事業連合会がめざす16~18基とはほど遠い。
次に,再生可能エネルギーについて。第5次計画は「50年までに再エネ主力電源化をめざす」新方針を打ち出したが,30年再エネ電源22~24%という見通しは据え置いたまま。本気でやる気があるのか,という疑問が生じる。見通しを上方修正して,少なくとも30年30%とすべきではないか。
火力発電についても,いくつか問題がある。
16年の地球温暖化対策計画(50年までに温室効果ガス80%削減)と18年の第5次エネルギー基本計画(30年に火力発電56%)という二つの閣議決定のあいだには,明らかな矛盾がある。この矛盾を,どう解決するのか。
非効率石炭火力はフェードアウトするにしても,高効率石炭火力は,30年に主要な電源として残る(30年の電源構成の約20%は石炭火力だと見込まれる)。にもかかわらず,日本の商社が石炭への逆風に耐え切れず一般炭事業を手放すなどしたため,石炭の自主開発比率は15年度の63%から19年度の54%へ低落した。第5次計画の目標値(30年60%)を下回ってしまったが,このままで良いのか。
第5次エネルギー基本計画が維持した30年の一次エネルギー供給における天然ガスの構成比は18%。必要量は約6200万トン。18年度のLNG(液化天然ガス)輸入量の8055万トンと比べて,23%も減少する。第5次計画が謳う「天然ガスシフト」は,「看板倒れ」だ。
ほかにも水素発電の見通しが立たないため,「水素・燃料電池戦略ロードマップ」の遂行が暗礁に乗り上げているという問題もある。
さらに,コロナ禍後の世界で起こる構造変化にも目を向けなければならない。米中デカップリングが進むなかで,「新国際資源戦略」とインド太平洋戦略とのすり合わせをいかに図るのか。LPG(液化石油ガス)輸入価格の低廉化やLNGの仕向地条項の緩和に貢献してきたアメリカのシェール革命の先行きは,どうなるのか。エネルギー基本計画の改定過程でチェックされるべき論点は多い。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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