世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1823
世界経済評論IMPACT No.1823

感染者100万人を超えて拡大続くインドへの期待:回復者増で死亡率抑制やSAARC等国際協力推進

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授)

2020.07.27

 総人口13憶人を対象に世界最大の新型コロナ感染対策のロックダウンを講じたインドでは,6月に入って徐々に規制が緩和されるに伴い感染者が急増し,7月18日には100万人を超えた。政府は「未曾有の危機」と重く受け止めWHOも評価する対策を講じてきたにもかかわらず,感染者総数は米国,ブラジルに次ぐ世界第3位となり,なお増大が続く。政府は命を守りながら経済復興に向けて慎重に規制緩和を図っており,今後の感染状況の推移とともに他国にも参考となる取り組みに注目し期待したいと思う。

 インドで初の感染者が出たのは今年1月中国の武漢帰りの学生で,感染者が600人台となった3月25日に全インド13億人や外国人,外国企業を含めて3週間の全土封鎖ともいうべき厳しいロックダウンを発令し,5月3日,17日,そして31日まで延長した。「積極的でタイムリーな措置」とWHOも評価し,3月22日には“Janata Curfew”(国民の自主的外出規制)でいわば予行演習を行ったように周到な準備を行った。その結果,人口の大きさや高密度だけでなく人種や宗教,文化の多様な社会構造や貧困問題等で感染症が広がる要因が多いにもかかわらず,当初インドの感染状況は欧米のような急拡大を免れた。

 インドの新型コロナ感染者数は110日で10万人になったが,その後59日で90万人に達し,3日で100万人を超えた推移に見る通り,規制が部分的に緩和され始めた6月後半からロックダウン解除後の7月に入ってから急拡大した。感染力に加え規制緩和,検査数の増大等が要因であるが,感染者数の増大以上に回復者数が増加し(回復率向上),死亡者数は増加しつつも死亡率が低下し抑制されているのが大きな特徴である。回復率は5月初めには27%であったが,感染者が大台を迎えた7月半ばには回復者が過半の63%になり死亡者数を圧縮,死亡率(感染者100人当たり死者数:CFR)は2.5%に止まっている。この比率は世界平均より低く,感染者の多い欧米諸国の比率に比しかなり低い。

 この低い死亡率についてはモディ首相や保健大臣も国民に誇っており,「目標は死亡率を低く抑えこむこと」であり,そのためにワクチンがまだ開発されていない状況で感染者追跡,積極的な検査,適切な治療管理,効果的な隔離等の対策が機能しているからと説明している。また,感染者追跡ではインド独自のAarogya Setu(健康の架け橋の意)アプリが導入され,国民ID制度のAadhaarを活用した救済策の現金給付等も行われている。さらに,新型コロナ感染症対策は自国だけでなく国際協力が必要として,WHOや外国との連携を図る中でインドを含む南アジア8か国では,地域協力機構SAARCの協力を推進し,また150か国以上にマスクや医療従事者用のPPEキット,医薬品の提供や医療チームの派遣等に協力している。

 インド自身は目下新型コロナ対策を最重点に取り組んでいるが,これに加えてこの時期サイクロンやモンスーンの洪水被害も多く,また今年はアフリカ東部からバッタの大群がイランやパキスタン,それにインド西部に飛来し蝗害の懸念もある。それらに加え,西部のカシミール地方と東部インド国境では中印両軍の対峙問題が勃発し,一昨年の武漢市,そして昨年チェンナイ市で中印両国首脳が関係強化や和平に向けて話し合った意義が問われている。インドでは,中印貿易の大幅赤字問題に加えて近隣周辺国やインド洋への中国の一帯一路関与もあって「反中国」の国民感情が高まっている。インドにとっては「内憂外患」の状況下に置かれており,2期目に入り本格的な構造改革とGDP5兆ドルを目指し,世界第3位の大国入りを視野に置くモディBJP政権は正念場を迎えている。

 モディ首相は,インドだけでなく全人類にとっても新型コロナ感染は「未曾有の危機」であり,これを乗り切るには「新時代のテンプレート」が問われるとし,インドが次期の国連安保理非常任理事国に選出されたこともあり国連の改革あるいは再生(rebirth)が必要と述べている。この重要な時期に米中2大国の対立ではなく新たなマルチラテラリズムの国際協力と和平を実現する上で,新興大国インドが果たすべき役割があると思われる。当面はインドが葛藤しながら実施する新型コロナ対策とその国際協力の取り組みの中で,民主主義国家として反対意見や抵抗も受け入れながらどのような役割で国際貢献して行くのか注目して行きたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1823.html)

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