世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナに翻弄される今,リーダーシップを問う:迅速性と具体性が鍵を握る
(桜美林大学 副学長・教授)
2020.05.18
この原稿を書いている現在もコロナの勢いは衰えていないが,生命の危険と経済の危機のせめぎあいの中にあって,国によって温度差はあるものの,世界のリーダーはそろそろ出口を模索している。日本でも緊急事態宣言が出されて一か月以上たった今,新規感染者数は下降してきており,解除に向けての地ならしが行われている。
ヨーロッパにおいてはドイツがダントツに死者数が少ない。そしてメルケル首相の支持率が80%に達しようとしている。これは何を意味するのか。ベルリン在住40年の友人は現地で活躍するピアニストだが,「申請した翌日に銀行から3か月分の生活費が助成金として振り込まれた!」と喜んでいた。これは4月上旬のことである。安定した財政基盤のないフリーの音楽家にとって,対応の迅速性は死活問題である。この迅速性は政府の打ち出す施策にも表れている。すでに3月の時点でベルリンではレストランも美容院も閉まり,スーパーでは1.5メートルおきに床にテープが張られていた。
メルケル首相はわかりやすいメッセージを発することで国民の信頼を勝ち得ているという。国民の命にかかわる重大な決断を一早く下し,さらに誰もがわかるように具体的に方針を示している。また国民が大切にしていることには配慮することも忘れない。たとえば,今の時期はドイツ人が楽しみにしているアスパラガス(特にホワイトアスパラガス)の収穫の時期だ。この収穫には相当数の出稼ぎ労働者が必要だ。毎年,特に東欧から来るが,今年はどうするのであろう。たかがアスパラガス? と思う向きもあろうが,これはドイツ人の誇りともいうべき一大イベントである。この楽しみを担保するために下した方針は,ドイツに入国する前に2週間の隔離をして,その上でコロナに感染していないという陰性の証明を得た人だけがドイツに入国してこの収穫を手伝えるという訳である。ただ我慢を求めるのではなく,国民のモティベーションにかかわることに関しては明確な指針を示して実施する。もちろん,森林浴が大好きなドイツ人の行動を公園で警察官が見回ってチェックすることも怠らない。また,難民に関しては,4月下旬にシリアよりギリシャ経由で200人くらいの難民がハノーバーに到着したが,2週間の隔離を経て受け入れを認めるという。このような時期においても難民は受け入れるというメルケル首相の信念を感じる。
日本のリーダーに問う。調整型のリーダーはもはや不要だ。今こそ,迅速に具体的に自らの信念をもって自分の言葉で語りかけてほしい。
関連記事
馬越恵美子
-
[No.3415 2024.05.13 ]
-
[No.3277 2024.01.29 ]
-
[No.2983 2023.06.05 ]
最新のコラム
-
New! [No.3602 2024.10.28 ]
-
New! [No.3601 2024.10.28 ]
-
New! [No.3600 2024.10.28 ]
-
New! [No.3599 2024.10.28 ]
-
New! [No.3598 2024.10.28 ]