世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナショック後に来るもの
(専修大学経済学部 准教授)
2020.05.18
社会的に共有された「危機」対応は,かりにその危機がすぎさったとしても社会に記憶され,事後に引用される。次第によっては制度化されるものもある。世界大戦が経済も文化も社会も政治も国際システムも変えたことを思い起こす必要があろう。その可能性があるものとして,以下のようなものが挙げられるだろう。
(1)財政政策と金融政策の融合
リーマンショック後にとられてきた「非伝統的金融政策」は事実上の財政政策だったが,このことを否定する人がほとんどいなくなる可能性が高い。政府債務の良しあしについての社会的合意が変化するところまで行く可能性も十分あろう。
米国の財政赤字(対GDP比)はコロナショック前の3倍になったが(15%),長期金利はむしろ低下している。FRBが無制限の債務引き受けを開始したためが,これがいつまで続くのか,また,金利高騰(国債価格の下落)の兆候がみられたときに中央銀行と政府がさらなる対応をとるのかどうかが目先では重要だ。現実的には対応せざるをえない。
(2)デカップリング
「米中のデカップリングは無理である」というのがコロナ前(2019年)までの「常識」だった。しかし,マスクや治療薬の経験はこうした常識を更新するだけの影響力を持つ可能性がある。米国のトランプ大統領がこうした言説をくりかえしていることに注意する必要がある。この点では,第一次世界大戦前の状況を想起する必要があろう。
(3)格差の拡大
一般的な意味で考えることも重要だが,いまの局面では戦争との対比で考えるのが重要だ。トマ・ピケティも指摘したように,20世紀の戦争は(すべての「国民」を動員するという意味で)「平等」を実現した。また破壊をつうじて資産家の富は劇的に縮小し,(資産)格差の縮小を導いた。しかしパンデミックはこうした特徴を持たない。むしろ富裕層は自分の身を守りやすい。
また,資本家(資産所有者)と労働者(非資産家)の格差だけでなく,国家・地域間の格差に目を向けるのも重要だろう。コロナは,新興国や途上国・途上地域により大きな否定的影響を与えていることを軽視すべきではない。伝えられているだけでも,南アフリカやインドで都市封鎖に抗議する失業者らが暴動を起こしている。経済的に余裕がある国・地域は長期にわたる移動制限に耐えられるが,そうではない国・地域は移動制限に耐えられない。
(4)ソーシャル・ディスタンスとイノベーション
人びとを空間的に分離する措置は「危機」への一時的対応ではない可能性が高い。なぜなら,新型コロナウィルスは克服しえても,「次のウィルス」の可能性は(論理的には)尽きないからだ。
このため,人びとを空間的に分離しながらも組織するテクノロジーに社会的注目が集まるだろう。とくに,ロボットによる身体の代替——これは最終的に空間的移動の必要性を極端に低下させるところまで進む可能性がある——とコミュニケーションを効率化する技術に資本が集中する。これを独占する者が社会においてもヘゲモニーを行使すると想定するのはおかしくない。つまり,GAFAないしGAFAM(GAFA+Microsoft)の社会的影響力はますます強化されるということだ。
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