世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
想定の倍以上のペースで進む外国人の流入:体系的な移民政策の確立は必須
(専修大学経済学部 教授)
2025.03.31
想定の倍以上のペース
日本に流入する外国人が急増している。2024年末の在留外国人は約372万人で,前年末比10.5%も増えた。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)は2023年,「70年に日本の総人口は8700万人まで減り,1割は外国人になる」と推計したが,外国人は想定の2倍以上のペースで急増している。また,厚生労働省の調査によると2023年10月時点で外国人労働者数は初めて200万人を超えた。
外国人の流入が地方にも広がっているのも最近の特徴である。これは「国際交流協定(MOU)」を提携する自治体がコロナ禍以降,3大都市圏以外の地方に広がっていることからうかがえる(織田一「外国人材協定第2次ブーム コロナ後の主役は地方 相手国も変化」『朝日新聞』2025年3月24日付朝刊)。
すこし前まで「円安は日本から外国人を遠ざける」という論評もあったが,これは誤解だった。むしろ,新興国・途上国の一人当たりGDPがある程度日本にキャッチアップすることは労働力の押し出しを促す。
移民労働力の過小評価
しかし,現在は世界各国で移民排斥の動きが顕著になってもいる。欧州の主要国ではドイツのAfDなど反移民・反グローバル化を掲げる極右政党が台頭し,これを米国の副大統領や政権幹部が支援するという事態にまで発展している。これは移民拡大の流れと矛盾する動きだがどう理解すべきか。
世界は始まったばかりの「ヒトのグローバル化」の意味を過小評価しているのではないか。世界人口が依然として拡大を続ける一方,すでに社会資本ストックの蓄積された先進国では高齢化・人口減が進んでいる。こうした下では移民拡大の流れは不可逆だ。しかも人口が減少する日本をふくむ先進国にとってこの流れを拒む合理的な理由もない。本来ならだれもが「得」をする豊かな未来を描けるはずだ。
米国の成長率の高さはもっぱら「イノベーション」に求められることが多いが,それは移民の役割の過小評価と裏腹である。米モルガン・スタンレーのエコノミスト・マイケル・ゲイペン氏によれば,移民を制限すればその労働供給や消費を経済から排除することになる。仮に移民流入を2025年に100万人に,2026年に50万人に減少させると,実質成長率や潜在成長率がこれまで2.5~3%のところ2025年は2%,2026年は1.0~1.5%まで急激に下がる(生田弦己「米成長減速,利下げの行方は 『移民抑制』の影響,過小評価」『日本経済新聞』2025年3月22日付朝刊)。
インパクトの大きさに驚いた読者もいるかもしれない。「ヒトのグローバル化」が本格化する中で,いまや移民政策は貿易政策と同等以上に重要なのである。だからこそ反動も大きいともいえるかもしれないが,しかし「反動」はあくまで反動であって,それを本来の流れを混同してはならない。
体系的な移民政策の確立が必須
米欧主要国の移民排斥や排外主義とは逆の動きもある。2024年11月20日にスペインのサイス包摂・社会保障・移民相が発表した移民政策に注目したい。2025年5月開始予定の新たな措置は「文化的豊かさや人権尊重」とともに「繁栄」を目的とし,主要国の移民排斥の動きとは真逆の政策を打ち出した。
依然として日本政府は「いわゆる移民政策はとらない」との方針を堅持しているが,前述のように地方を中心に在留外国人の獲得競争が始まっている中で,中央の司令塔が不在のまま「自治体任せ」で対応が進むことは政府の責任を放棄しているといわれても仕方がない。
しかし,社人研の是川夕氏の指摘するように日本は「外国人と仕事の奪い合いにはならない」。外国人材とともに社会をつくっていくことが優先課題だ(日本経済新聞社「人財立国への道・国富を考える② 後継ぎ不在,打開へ共生 『外国人1割』ともに成長」『日本経済新聞』2025年3月25日付朝刊)。
ここでは社会統合の視点も不可欠だが,過剰な同化圧力はむしろ社会統合を阻害し,差別や排外主義を生む。日本は米欧の流れと一線を画し,人権政策と経済的繁栄を両立させようとするスペインのアプローチに学ぶべきところが大きいと考える。政治的構想力が問われる。
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