世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ASEANおよび東アジアのコロナウイルス感染動向:シンガポール,インドネシア,フィリピンは感染拡大止まらず
(亜細亜大学 特別研究員)
2020.05.12
ASEANのコロナウイルス感染者(5月11日時点累計以下同じ)は5万9664人,死者1910人に増加した(注1)。感染者が最も多いのはシンガポールで2万3822人である。ただし,シンガポールの死者は18人と極めて少ない。シンガポールは5月に入ってからも600~800人規模の増加が続いている。5月10日は486人だったが,多数の感染者の発生が続いている。インドネシアは5月9日に533人と過去最高を記録し,フィリピンも日による変動は大きいものの5月11日は292人となるなど感染の拡大が止まっていない。
ベトナムは感染者288人,死者ゼロで4月16日以降は感染者ゼロの日が多い(17人発生の5月7日を除き)などコロナ対策が最も効果をあげている。タイも5月4日の18人を除き,4月27日から感染者数は一桁と収束が見えてきている。
東アジア全体をみると,ベトナム,タイに加えて台湾,韓国,香港,豪州,ニュージーランドでの感染者の減少が顕著である。感染者の発生が減少し,死者が減少すると回復者の感染者総数に対する比率(回復者比率)が高まる。回復者比率をみると,香港が93.9%で最も高く,タイ92.7%,ニュージーランド92.5%,豪州88.9%,韓国88.2%,台湾83.6%となっている。一方,シンガポールは13.5%,フィリピンは18.0%,インドネシアは20.0%と高く,感染拡大を抑え込めていない。
日本については死者が少ないことが指摘されているが,これは東アジアに共通している。人口100万人当たりの死者数は,日本は5人と欧米に比べるとけた違いで少ないが,ベトナムはゼロ,台湾は0.3人,香港0.5人,マレーシア3人,シンガポール,豪州,ニュージーランドは4人,韓国5人である(人口が巨大な中国,インドは除外している)。100万人当たりの感染者数もシンガポールを除き総じて少ない。PCR検査が少ないためとの指摘があるが,100万人当たりの検査件数が多い豪州,ニュージーランド,マレーシアも少ない。日本を特別視するのではなく,東アジア全体でみるべきであろう。
日本の特徴は先進国としてはPCR検査数が100万人当たり1725件と際立って少ないことである。100万人当たりの検査件数はニュージーランドは4万件を超え,豪州とシンガポールは3万件を超えている。韓国の1万3039件はいうに及ばず,途上国のマレーシア8395件,タイ3264件,モンゴルの2961件,ベトナムの2681件以下である。現状では日本は低所得国と変わらないレベルである。
日本の状況はオーストリアと比較すると判りやすい。感染者は日本1万5847人,オーストリアは1万5882人,死者は日本633人,オーストリア620人とほぼ同じである。しかし,回復者比率はオーストリア88.5%に対し,日本は52.3%であり,オーストリアは収束に近づきつつあることが判る(ただし,日本の人口が圧倒的に大きいため,100万人当たり感染者数や死者ではオーストリアが10倍以上多い)。
なお,ラオスとミャンマーは公表されている以上の感染者がいると推測される。各国の状況は次のとおりであり,感染防止に向けて厳しい規制が実施されている(注2)。
■ブルネイは,3月10日にマレーシアからの帰国者の感染を確認した。5月11日の累計感染者は141人,死者は1人,100万人当たりの検査件数は3万6658件である。自国民およびが外国人の海外渡航を禁止している。
■カンボジアは,1月27日にメコン川の観光クルーズで3名の英国人の感染者がみつかった。5月11日時点の感染者は122人,死者は0人である。100万人当たりの検査件数は843件である。政府は,シエムリアップの人気観光スポット,全国のカジノを封鎖し,首都プノンペンの学校を閉鎖した。
■インドネシアは,3月2日に初めて感染者が確認された。長期間感染者ゼロだったが,5月11日には感染者1万4265人,死者991人に増加した。100万人当たり検査件数は540件である。首都ジャカルタで多くの感染者が見つかり,ジャカルタ首都圏と地方都市の人の移動が5月31日まで禁止されている。4月2日から外国人の入国は禁止されている。
■ラオスは,中国との国境封鎖とフライトの停止などの対応を取っていたが,3月24日に2名(ホテル従業員と観光ガイド)の感染が確認された。5月11日時点で19人となっている。100万人当たり検査件数は488件である。3月30日から4月19日まで外出禁止,公務員の出勤禁止,食品・医薬品を除く工場の操業停止,出入国禁止など厳しい規制が実施されている。
■マレーシアは,1月25日に感染者が確認された。5月11日の感染者は6726人,死者は109人である。100万人当たりの件数は8395件である。2月27日から3月1日に行われたクアラルンプール郊外での1万6000人規模の宗教行事参加者から多数の感染者が確認されている。3月18日から4月28日まで,全国での移動制限が実施されている。集会の禁止,宗教施設・事業所閉鎖,全教育機関の閉鎖,外国人の入国禁止など厳しい規制が実施されている。
■ミャンマーは,3月23日に米国および英国からの帰国者2名(ミャンマー人)の感染が確認され,5月11日時点で感染者180人,死者6人である。100万人当たりの件数は211件である。中国からの入国ビザに続き,3月29日から全ての国に対し入国ビザ発給が停止され,3月30日から国際便の着陸が認められていない。
■フィリピンは,1月30日に最初の感染者が確認され,5月11日時点で11086人,死者726人となっている。100万人当たり検査件数は1580件である。ルソン地域は3月17日から4月14日まで封鎖され,往来が禁止されていたが,30日まで延長された。外出は食品,薬品および生存に必要な物資購入を除き規制されている。入国ビザ発給停止,米国との軍事訓練の中止などが発表された。
■シンガポールは,1月23日に感染者が確認された。隔離命令に従わないと1万シンガポールドル(約70万円)か6か月以下の禁固もしくはその両方という厳しい規制を行っている。感染者数は4月20日の7365人から26日には1万3624人に増加,5月11日時点で2万3822人に増加している。死者は21人と極めて少ない。外国人労働者の感染が増加していると報じられている。100万人当たり検査件数は3万16件と欧米並みに多い。4月7日から5月4日まで生活に必要なサービスを除く職場を封鎖した。
■タイは,1月13日に感染者が確認された。5月11日の感染者は3015人,死者は56人である。3月26日から4月30日まで非常事態措置(午後10時~午前4時夜間外出禁止令)が実施されている。バンコクでは,レストラン,マーケット,学校,理髪店,スポーツスタジアム,ゴルフコース,マッサージ店などが閉鎖されている。開店が認められているのは,持ち帰りレストラン,スーパーマーケット,薬局,食品マーケットである。4月28日に非常事態措置の一か月延期が発表され,30日には危険度重要度に応じた措置の緩和が発表された。労働許可証をもたない外国人の入国は禁止である。
■ベトナムは,1月23日に感染者が確認された。5月11日の感染者数は288人,死者はゼロである。4月3日以降感染者発生数は一桁であり,16日以降は24日の2人と5月3日の1人を除き,ゼロであり,収束に成功したといえる。ベトナム航空の国際線運航の停止,インバウンドフライトの停止,ホーチミン市で30名以上規模のレストラン閉鎖などの感染防止策を実施していたが,3月30日に全土のパンデミック宣言を首相が行い,4月1日から22日まで不要不急の外出禁止(主要都市)となっており,23日に外出禁止を原則解除した。4月8日,9日にダナンで開催予定のASEAN首脳会議は6月に延期された。
中国,韓国,台湾以外の東アジア主要各国・地域の感染動向はほとんど報じられないので下記にまとめておく。
■インド 感染者7万768人,死者2294人,100万人当たり死者2人,100万人当たり検査件数1213件。
■パキスタン 感染者3万941人,死者607人,100万人当たり死者3人,100万人当たり検査件数1335件。
■バングラデシュ 感染者1万5691人,死者239人,100万人当たり死者1人,100万人当たり検査件数789件。
■スリランカ 感染者863人,死者9人,100万人当たり死者0.4人,100万人当たり検査件数1709件。
■モンゴル 感染者42人,死者0人,100万人当たり検査件数2961件。
■豪州 感染者1万909人,死者97人,100万人当たり死者4人,100万人当たり検査件数3万3534件。
■ニュージーランド 感染者1497人,死者21人,100万人当たり死者4人,100万人当たり検査件数4万270人。
■香港 感染者440人,死者4人,100万人当たり死者0.5人,100万人当たり検査件数2万2448件。
*本稿の内容は執筆者個人の見解に基づいており,国際貿易投資研究所および文眞堂の見解を示すものではありません。情報は日々更新されますので,最新のデータについては,関連機関(注参照)などでご確認ください。
[注]
- (1)感染者数などは,ジョンズ・ホプキンス大学およびワールドメーターによる。
- (2)各国の状況は,ASEAN Biodiaspora Virtual Centre(ABVC), “Risk Assessment for International Dissemination of COVID-19 to the ASEAN Region” ,ジェトロなどによる。最新状況については,ジェトロ情報を参照。緊急経済対策はジェトロおよび日本アセアンセンターホームページに掲載されている。
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