世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1665
世界経済評論IMPACT No.1665

不信が生む金融危機

真田幸光

(愛知淑徳大学ビジネス学部ビジネス研究科 教授)

2020.03.23

 新型コロナウイルスの悪影響は甚大である。

 筆者はその根源を,「不信感というウイルスが世界の人々の心に伝染,蝕んでいる」と見ている。

 言うまでもなく,人間社会は,「信用」によって成り立っている。

 しかし,疑心暗鬼が続く社会にあっては不安,不信が先行する。

 平時には,「信用創造」と言う手段によって経済社会は拡大する。

 ところが,この10数年は,「人々に借金をさせて消費や投資をさせる」という「行き過ぎた信用創造」によって,実体経済を上回る資金が市中に放出され,文字通り,「バブル経済」となっている。

 特にこうしたバブル経済下では,実体経済に対して余剰となっている資金が投機性資金となり,これが先進国株式市場に大量に流れ込んでいる中,実体経済を背景とした,「ファンダメンタルズ」を基本としつつも,景気先行きに対する期待感などを中心とした,「Market Perception」が良いと,更に,株価は押し上げられる。

 そしてまた,金融市場が安定的に推移する中,先行き期待が高まる状況にあると,投機家は借金をして,投機元本を更に膨らませて,投機をしていくという,「キャリートレード」を推進していくことから,株価はぐいぐいと引き上げられていくことになる。

 ところが一点,今回のような,「不信感,不安感」がひとたび発生すると,先ずは,借り入れをして投機をしていた株式投資に実損が出る可能性が高まることから,投機をしていた株が売られ,この結果,株価を下げながら,借金は返済されていくこととなる。

 このように,不信感,不安感は,株売りを誘導し,負の循環は拡大していく。

 上述した,Market Perceptionの悪化が,こうした事態を引き起こすのである。

 こうした中,米国の中央銀行に当たるFRBは,金融市場に,「安心感」を齎そうとして,更なる利下げをせざるを得ないであろう。

 しかし,多分,それでもこの不信感は止まらない可能性が高い。

 米国の基準金利はマイナス金利まで,後,約1%の余裕があり,こうした予防的オペレーションは可能でありますが,この「のりしろ」を使い果たすと,先進国株市場の負の連鎖はいよいよ止まらず,「急激な信用収縮」に入ると見られ始めているのである。

 そして,そうなると,先進国株式市場に流入していた,上述した「投機性資金」は一旦,市場からほとんど全て逃げ出す,即ち,少なくとも,リーマンショック時の水準までの株価水準に落ちる可能性が大となる。

 これを,数値で示すと,「日経平均株価は7,000円前後,米国ダウは8,000米ドル前後」を覚悟せざるを得ない状況となる。

これはもう金融危機といっても良い状況である。

 ところで,リーマンショックは,「民間セクターの負債過多」が引きお越した事態と言える。

 そして,リーマンショックと言う金融危機を改善しようと,各国政府が財政出動を伴う景気対策を打ち,日本を含む先進国の財政は更に痛んだが,何とか,世界経済は回復した。

 こうして考えると,今は,「公的セクターの負債過多」の状況となっていると考えられる。

 この間の一時期,ギリシャ財政危機や欧州財政危機などのピンチもあったが,何とかその危機を乗り越えて今日に至っている。

 しかし,今回,新型コロナウイルによって,これが弾けると,「公的セクター」が本格的に,世界的に,痛むことになることから,リーマンショック以上の悪影響,例えば,回復に時間がかかる,と言った事態となることは必至である。

 更に,そうなれば,国家に対する不信感が強まり,それが日本に来れば,「比較的安心安全通貨神話」を持つ,円までもが暴落してしまい,日本経済は,いよいよ,「株安,国債暴落,急激な円安」となり,国家経済運営が滞る危険性が出てきてしまう。

 しかし,上述したシナリオは全て,「不信,不安の連鎖」から発生するものである。

 従って,不信,不安の連鎖が起こらなければ,上述したような悪い事態は,「顕在化」しない。

 更に,突き詰めて考えれば,今回の不信,不安の根源となる,「新型コロナウイルス」の封じ込めさえ出来れば,今回の危険は回避されるはずである!

 だからこそ,筆者はその根源的対策となる,「新型コロナウイルスの何たるかの科学的検証」を行いつつ,「ワクチンの早期開発」と,「その大量生産」に一定の目途さえついてくれば,「国際金融市場の不安も払しょくされる」と考えている。

 しかし,これに手間取ると,最悪の金融危機まで落ちる,また,金融危機まで至らなくとも,不信と不安の期間が長引けば,「国際金融市場の回復には相応の時間がかかる危険性も高まる」と考えている。

 一方,実体経済について,考えると,上述したような新型コロナウイルスの封じ込めに成功しさえすれば,マスクもトイレットペーパーなども心配しなくてよくなる。

 まして,検査キットの開発はいらなくなる,そして,金融の問題が長引いていなければ,不安が払しょくされ,「ひと,もの,かね」が動き出し,実体経済の回復は思ったよりも早くなる可能性は十分にあると見ている。

 だからこそ,今,すべきは,「世界が力を合わせてワクチンを開発すること」これに尽きる。

 そして一言,新型コロナウイルスの問題を政治利用することは言語道断!である。

 尚,筆者が認識しているところでは,中国本土は今,「ワクチンの早期開発」に全力投入している。

 そして,一部には,「中国本土政府は,新型コロナウイルスの根源は中国本土ではないと世界に訴えつつ,一方で,ワクチンを世界に先立って開発すれば,中国本土が,新型コロナウイルスから世界を救った,との論理展開を行い,中国本土にとって,災い転じて福となす,作戦に出るのではないか」との見方も出てきているのである。

 日本は,世界は,今,瀬戸際に来ている。

 混沌は深まるばかりである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1665.html)

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