世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
2020年総選挙に向けたミャンマーの現状と今後の課題
(金沢星稜大学経済学部 教授)
2020.02.17
ミャンマーの与党,国民民主連盟(NLD)が主導している連邦議会の憲法改正委員会は本年(2020年)1月27日,現行憲法改正案を提出した。この主な改正点は,国軍の政治関与を低減させることである。可決のめどはたっていないが,本年11月に予定される総選挙を前に一つの姿勢を示したものである(注1)。
その背景には,スー・チー国家顧問が率いる国民民主連盟(NLD)政権の求心力が低下していることがある。
第一に,閣僚の汚職が相次いでいる。最近では,2019年7月下旬,キン・マウン・チョー工業相が辞任した。国営企業の調達を巡って汚職に手を染めた疑惑のためである。2018年5月には,側近のチョー・ウィン計画・財務相(当時)が汚職の建議で辞任した。
第二に,政権最優先課題である少数民族との和平交渉が停滞している。
2年が経つロヒンギャ問題も膠着状態が続いている。
国際司法裁判所(ICJ)の審理では,この問題に関し,ガンビアが大量虐殺の認定を求めたが,スー・チーは2019年12月11にICJに出廷し,住民殺害はないとしたものではないと主張し大量虐殺を否定した。これは国軍の擁護者としての立場をとることで国軍へ協力を求めたものと解釈される(注2)。
しかし,欧米各国からの失望感が強いのが現状である。
第三に,前政権時代より経済成長率は1%近く下落し,国民の間では経済停滞の不満が募っている(注3)。
では,経済面ではどうなっているのか。
NLD政権下で減少が続いてきた外国投資だが,復調の兆候もみられる。2018年度(2018年10月~2019年9月)の外国投資認可額は41億ドル(約4,400億円)と前年同期比で27%伸びている。
また,投資・対外経済関係省(Ministry of Investment and Foreign Economic Relations)が2018年11月に新設され,多くの外資を誘致するために許認可を簡素化するといった中心的存在となる。計画財務省企業投資管理局(DICA)と同省対外経済関係局(FERD)を統合した組織となっている。同省には,ミャンマーへの投資促進に向けて,省庁横断的かつ主体的に対応していくことが期待されている(注4)。
ミャンマーは,長い軍事政権の影響もあり,世界銀行の発表した2020年度版「ビジネス環境ランキング」では,190カ国中165位と低いが前年から6位上昇した。
2017年に新投資法,2018年に新会社法を制定するなど,ビジネス環境改善や外国企業誘致に向けて取り組んでいる。また,2019年に入ってからも,2019年1月30日に商標法と意匠法が成立,続いて3月11日には特許法が,さらに,5月24日には著作権法が成立した。これにより,現在まで存在していなかった商標・意匠・特許の登録を定める法律がミャンマーで制定されたとともに,著作権法が100年以上ぶりに改正され,国際的な基準を満たした知的財産法制が整備された。国際協力機構(JICA)が支援したものである。
各法の施行日は,知的財産庁の設立準備に合わせて今後定めるとの方針であるため,現段階では確定していない。また,今後は,知的財産に関する所管が教育省から商業省に移り,まずは知的財産庁設立を経る予定である。円滑な知的財産庁設立と法律施行が求めらている。各法の施行規則については教育省にて現在検討中であり,国際的に遜色のない制度にするとともに,出願や審査を初めて行うミャンマー政府や企業にとっても適切に機能する制度とすることが期待されている(注5)。
保険業では,2019年4月に,外資生保5社に全額出資での参入を仮認可した。
本年11月に総選挙が予定されている。議会の25%が軍人枠に割り当てられており,民主化という点ではまだ先は遠い。これらの動向がミャンマーの今後の方向性を占うひとつになる。注目したい。
[注]
- (1)『日本経済新聞』2020年1月28日。
- (2)『日本経済新聞』2019年12月28日。
- (3)『日本経済新聞』2019年8月19日。
- (4)ジェトロ「ビジネス短信」2018年11月27日,2020年2月11日アクセス。
- (5)国際協力機構(JICA)「ミャンマーにおける知的財産に関する法律の成立」2019年6月3日,2020年2月11日アクセス。
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