世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
報道内容から展望する日中韓FTAの見通し
2020.01.27
日中韓自由貿易協定(日中韓FTA)は,2019年2月に発効済の日EU経済連携協定,そしてここ数年間,「年内に妥結を目指す」ことが話題になる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)と同じく,2010年に交渉が始まった。その中でも日中韓FTA交渉はその進展が遅いことが指摘されてきた。2018年12月に開催された第14回交渉会合では,「日中韓FTA交渉の加速化」に合意しながら,「RCEP交渉の進捗を踏まえつつ」「包括的,高水準かつ互恵的な協定」として日中韓FTAが位置付けられ,その後の2019年4月の第15回交渉会合,11月の第16回交渉会合においても同様であり,「加速化」の意味は不透明になっている。
日中韓FTAはメンバーが3カ国のみであるが,世界総生産の約24%,世界貿易総額の約17%,世界人口の約18%を占めるメガFTAである。とりわけ,中国は日本の一番大きい貿易相手国であり,韓国は第3位であり,日本の貿易額のそれぞれ約21%と6%を占める。日中韓の間で長期的に形成されてきた,緊密な関係にある工業製品を中心とするサプライチェーンは,中韓が日本の貿易総額の合計約27%を占める主要因である。去年の7月1日に日本の経済産業省が発表した対韓輸出管理上のカテゴリーの見直し,それに続く7月4日からのフッ化ポリイミド,レジスト,フッ化水素の輸出規制に伴い,それまで米中貿易摩擦で影響を受けてきた日中韓は更なる問題点に直面することになった。またその影響は物品貿易において大きいが,サービス貿易についてはどうであろうか。日本政府観光局によると,2019年の訪日外国人数は3,100万人であるが,前年に比べ2.2%伸びている。その割合は中国人が約30%(増加率14.5%),韓国人が約18%(マイナス25.9%)で,中韓で48%を占めている(2018年は51%)。中国と韓国で明暗が分かれている。だが,1月25日は春節であり,中韓では春節に長い休みになる。春節で日本が人気の旅先のトップに選ばれているという統計結果が発表された(中国トリップドットコム,韓国旅行予約サイトagoda)。日中韓の文化交流を深め,民間レベルで今後の経済連携につながることを願う。
政府レベルでは日中韓首脳会議が2019年12月24日に中国の成都で開かれ,この8回目の会議には日本の安倍晋三首相,中国の李克強総理,韓国の文在寅大統領が出席した。韓国における新聞社の最大手,朝鮮日報のネット版(chosun.com)によると,韓国大統領府の高ミンジョン報道官は,「文大統領と李克強総理は今回,実質的な協力について沢山の話をした。日中韓FTAなどについても(李総理が)非常に強い意志を見せた」と述べたと伝えた。
首脳会議の開催に先立ち,22日北京で日中韓経済貿易大臣会合(第12回)が開催された。また同紙によると,中国国営中央(CC)TVは日中韓経済貿易大臣会合の内容を詳細に伝え,三国が自由貿易に関連し重要な共同認識を共有したと報道し,また三国の大臣が域内の相互協力の重要性を共感しながらRCEPと日中韓FTA交渉を加速すること合意したと付け加えた。次に中国国営の環球時報もこの日の論評で「三国は協力を強化し,FTA推進を加速することに合意した」とし「米国から触発された保護主義の負傷に対抗し世界経済のために協力することになった」と今回の会合を肯定的に評価した。さらに「三国間の協力は域内の経済貿易の可能性をさらに引き上げる」とし「これは北東アジアに朗報であるだけでなく,大きな困難を経験する世界経済にも役立つだろう」と主張した。そして「三国FTAは成都で開かれる首脳会議の主要議題になる」とし「首脳会議は三国FTAに政治的推進力を吹き込むだろう」との展望を伝えた。また国営のチャイナ・デイリー(英字新聞)もこの日の論評で「三国間の貿易規模は7,200億ドルを超えた」とし「三国間の協力は,公正な貿易とグローバル化を守護するための世界貿易機関(WTO)の改革に重要な要素である」と強調した。また中国共産党機関紙の人民日報と新華社通信などの主要な国営メディアも三国の経済貿易大臣会合の内容を詳細に伝え,三国がRCEP推進のために協力することにしたと報道した。
12月23日には北京で習近平首席と安倍晋三首相の日中首脳会議,習近平首席と文在寅大統領の中韓首脳会議が開催された。日中韓首脳会議の同日,第7回目となる日中韓ビジネスサミットも開催された。朝鮮日報によると,この日中韓ビジネスサミットで韓国の文大統領は「中国の一帯一路,日本のインド太平洋構想,韓国の新北方・新南方政策は,大陸と海洋を連結し,心と心を繋ぎ,皆の平和と繁栄を助けることを目標としている」と述べ,三国の協力方針を提示した。「北東アジアで鉄道共同体を先頭にエネルギー共同体と経済共同体,平和安保体制を成し遂げれば,企業のビジネスチャンスは更に多くなり,新シルクロードと北極航路を開拓し,真に大陸と海洋のネットワーク連結を完成させる」,「三国の企業は北東アジアのみならずASEANなど第四国での協力を拡大し,アジア・太平洋地域の経済開発に共にして,平和が経済となり,経済が平和を成す平和経済をアジア全体で実現できるようになることを期待する」と述べた。
これらの報道に見られるとおり,交渉ペースの遅れの中にあっても,政府レベルでは日中韓三カ国とも独自の目標設定と同時にFTAに向けた機運を高めようとの意図が明確である。また三国を含めたRCEP交渉も今後同時に進めるべきであり,そのためにも三国にとって域外の「第四国」(具体的にはRCEP交渉に参加するASEAN諸国)において,インフラ関連プロジェクトなどの共同実施が小規模ではあっても早急に望まれる。
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