世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4178
世界経済評論IMPACT No.4178

中韓首脳会談と中韓ビジネスフォーラム

韓 葵花

(千葉大学 非常勤講師)

2026.01.19

 高市早苗首相と李在明大統領の日韓首脳会談が2026年1月13日に奈良で開催された。韓国大統領が日本を訪問したのは2年半ぶりとなる。外務省によると,両首脳は経済,経済安全保障の分野で戦略的で互いに利益をもたらす協力を進めることにしたという。またサプライチェーン協力について踏み込んだ議論をされたそうだ。

 これに先立つ1月5日,北京では中韓首脳会談(習近平主席と李在明大統領)が行われた。中国外交部によると,両首脳は科学技術革新,生態環境,交通,経済貿易協力の分野における15の協力文書の署名を見守ったという。韓国聯合ニュースによると産業分野では,韓国産業通商部と中国商務省が新たなビジネス協力対話メカニズムの設立に関する覚書(MOU)を締結,両国間の定期的な協議メカニズムを構築し,産業協力と交流の拡大を目指すことで合意した。技術革新分野では,両国が研究者交流を拡大し「世界的に共同で挑戦する科学技術革新に関するMOU(覚書)」,「デジタル技術協力の関するMOU」に署名した。

 李在明大統領は国賓として1月4日から7日まで中国を訪問したが,韓国大統領の訪中は6年ぶり,また国賓としての訪中は8年ぶりとなる。大統領府によると,訪中日程が迫る中,161社400人余りの大規模経済使節団が組成され,李大統領に同行した。

 同じ日に北京では韓中ビジネスフォーラムが,中国国際貿易促進委員会と大韓商工会議所の共同主催で開催された(前回は2017年12月文在寅大統領の訪中時)。李大統領はビジネスフォーラムの前,分野別に両国の代表企業と事前懇談会を開いた。

 事前懇談会には韓国側から,サムスン電子やSK,現代自動車,LGの4大グループの会長とポスコ,GS,CJ,LSなどの主要大企業をはじめ,ファッション,文化,コンテンツなど多様な分野で中国と協力を進めている韓国企業の代表11名が参加した。中国側からはシノペック,中国エネルギー建設グループ,テンセント,CATL,TCL科技グループ,ZTE,LANCYをはじめ,消費財,サービス分野の企業責任者11名が参加した。韓国政府は,これまでの韓中協力が韓国から中国への中間材供給,中国からの最終材輸出という単純な関係から,今回のビジネスフォーラムを通じて製造業からサービス,コンテンツまで様々な分野で立体的かつ水平的な方向に拡大するとした。李大統領は「良い隣人は千万金を払って得るほど大事だ」と言い,「友達を遠い所で探さず近くで探そう」と強調したそうだ。

 中国商務部は1月6日付環球時報を掲載し,韓国の国立政策研究機関である国際経済政策研究所の報告書「中韓間の競争と補完性の分析」が,こうした協力への期待を裏付ける根拠を示していると紹介する。報告書は,①中韓関係はこれまで協力を主軸とした構造から,主要輸出産業や主要商品が大きく重複する競争環境へと移行している,②一方,競争関係を維持しながらも,両国は依然として明確な補完的な貿易構造も維持している,③特に両国が国際競争力を有する産業においては,貿易がより活発に行われている。とし,この「競争と補完性の共存」という二重構造は,中韓関係が単純なゼロサムゲームではないことを意味し,両国が新たな段階においてより洗練された分業体制と協力モデルを模索するための現実的な基盤を提供していると結論付けている。

 ビジネスフォーラムでは中韓企業が9のMOU(覚書)を締結した。韓国産業通商部の1月5日付「消費財,コンテンツ,サプライチェーンなど中国内需への参加,本格的に始動」によると,消費財分野では4件のMOUが締結された(前社韓国,後社中国)。①新世界グループ(流通)とアリババインターナショナル,②Samjin Food(食品)と三進愛陌客有限会社,③FARM STAFF(農産品)と中環易達,④Pharma Research(バイオ,美容)と広東バイオメディカルの覚書である。

 コンテンツ分野では3件のMOUが締結された。⑤SEOBUK(コンテンツ)と北京アイトウカルチャーメディア有限公司,⑥ハローワークス(映像)とクオン,⑦ルートスリー(ゲーム)とBoundary Singularity Technologyである。産業通商部は「実力のある韓国企業が主導するコンテンツ分野のMOU締結を通じて,これまで商品中心の両国の貿易・投資協力が成長潜在力の高い高付加価値消費財・コンテンツ分野に広がる呼び水になることを期待する」としている。

 サプライチェーン分野では2件のMOUが締結された。⑧SWM(AI・自動運転)とLenovo,⑨クソン産業(環境にやさしい・ナノ)とBF Nano Technologiesである。産業通商部は最後の2件の業務協力で新産業分野において韓国企業の中国内需のサプライチェーンへの参加が拡大することを期待するとしている。

 2026年の中韓首脳会談と日韓首脳会談は,韓国慶州(2025年10月31日から11月1日)で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)での首脳会談から2カ月後と,極めて短期に行われ,中国と韓国,日本と韓国の関係改善と経済協力に注目が集まる。

 日中関係は,高市首相の台湾有事をめぐる「存立危機事態」発言(2025年11月7日)に対し,中国商務部が2026年第1号公告「デュアルユース品目の対日輸出管理強化に対する公告」(1月6日),第2号公告「日本原産ジクロロメタンの輸入に対するアンチダンピング調査開始の発表」(1月7日)を実施するなど厳しい状況になっている。かつては,2016年に韓国の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)配備からはじまった中韓関係の緊張,2019年8月日本の貿易管理上の優遇措置を受けられる「ホワイト国」のリストから韓国を除外することではじまった日韓緊張(2023年7月復帰)があったが,今回の首脳会談を経て急速な関係改善・関係回復の始まりとなるに違いない。中韓関係,日韓関係の急速な関係改善・関係回復が,日中関係の緊張緩和にプラスに働くことを心から願う。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4178.html)

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