世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
バーチャル・アジアPPPインフラ証券市場の創設
(元立命館アジア太平洋大学 教授)
2020.01.20
アジアPPPインフラ証券市場の必要性
アジアPPPインフラ事業を進めるためアジアPPPインフラ証券市場をバーチャルの専門家市場として創設することを提案したい。アジアPPPインフラ事業への投資家を増やすのが目的だ。アジアPPPインフラ証券市場で日系PPP企業が,PPP事業がある国のアジア通貨で資金調達する。設立時は日本側事業会社と日本側投資会社が過半数の出資持分を持ち,現地企業ないし現地側投資会社が少数株主となる外資系合弁PPP企業を,なるべく早く株式会社に転換できる会社形態で設立する。合弁契約書には,債券を発行しアジア・バーチャル証券市場で流通させ,株式は上場して設立10年以内に現地機関投資家多数を含め現地側出資持分を過半数にするとも書く。
インフラPPP合弁外資系企業を株式会社形態で設立することが,現地インフラの充実になり,現地資本市場の拡大で資本の現地化にもなると現地政府にアピールする。バーチャル・アジアPPPインフラ証券市場なので,各国会社法で設立された各国通貨で資金調達する株式会社だが,上場基準は統一し,定款に外資規制は置かず,情報開示,経営者責任,コーポレートガバナンス,社債債権者保護,ESG対応でも統一基準を置く。自国のインフラPPP会社を上場させ世界の機関投資家の資金を呼び込みたいと望む現地政府は厳しい証券市場規則を受け入れる。
日本と現地以外の機関投資家やインフラ投資ファンド・ESG投資ファンドは日本側投資会社に出資し,現地機関投資家は現地側投資会社に出資する。合弁PPP企業の発行する現地通貨建債券の投資家となる専門投資家は,同証券市場で売買できるのでportfolio投資の感覚でgreen fieldの直接投資に関われる。一般投資家は直接PPP会社が発行する債券・株式は買わずfund of fundとして組成された投資fundを買うので,一般的な間接投資の一環として通貨と金融商品の多様化を考えたportfolio投資ができる。インフラ事業の利益率が低いのは初期投資が大きいからで,15年ベースなら運営能力でかなり安定的な高い利益率が出る。
預貸業務で赤字の日本の地銀は,地銀投資ファンドを作り専門投資家になる。アジア各国通貨の為替変動でキャピタルゲインが利息・配当のインカムゲインより多くすることもヘッジ市場も使えば可能だ。地銀の融資先で技術のある中小企業が関わっているアジアPPPインフラ事業の債券に優先的に投資する。一般投信販売で顧客に損をさせて手数料を得るより,地元の中小企業支援になるならと顧客は一時的な損も納得する。
地方公営企業も日本側投資会社に現物出資し,技術支援の対価のロイヤルティを日本円で配当として受ける。水道地方公営企業は人口減で水道管の維持管理のみならず水道技術の維持とスタッフ数の維持で四苦八苦だ。日本に留学しているアジア人を日本の水道技術の維持スタッフと採用し技術を教え込み,現地PPP企業の技術者に転職・出向させる。彼らが主導して技術と経営の現地化,現地資機材の調達率向上とグリーン調達そして現地PPP企業の世界水準での情報公開とESGに取り組む。彼らの中にはインフラPPP企業が上場するまでに,独立しサプライヤーになる者も現れる。彼らを現地側出資者として取り込めば,ナショナリズムではなく能力により経営者を選ぶことに賛成する。
PPPインフラ事業で必敗の受注戦略
アジアのPPPインフラ事業の金融を間接金融主導から直接金融を交えたものに変えれば,現地政府首脳は当初資金コストや融資ではなく,投資期間全体のVfMで発注先を決めるようになり,日本企業に受注の可能性が生まれる。現状のままではアジアのPPPインフラ事業は今後中国企業による独占が起きかねない。中国EPC企業が,中国でのインフラ建設実績をアピールし,中国仕様の設計で中国製の資機材・製品・材料を使い中国人労働力を使って建設するため,初期投資コストが安くなる。中国開発銀行やシルクロード基金が初期投資のための長期設備資金を貸し,中国四大国営商業銀行や中国民間銀行がブリッジローンを安易に出すことも中国受注に拍車をかける。日本の事業者・商社・銀行そして日本の投資家に出る幕はない。
そもそもPPP事業の受注自体が日本企業コンソーシアムでは困難になっている。水PPP事業に典型的なように,日本の事業者は単独で事業をフルカバーできない,プラントメーカー,EPC企業,部品メーカー,中小規模の単品サービス企業が多く,コンソーシアムとして共同受注する体制が作れない。水道運営技術を持つ地方公共団体は地方公営企業法を盾に出資せず,技術移転も日本のODAによる技術援助以外は嫌だと言う。水道コンサルタントもすぐ金が受け取れる日本のODAによる研修ならよいが,技術の現物出資など論外だと言う。ダイナミック・ケイパビリティ論やティール組織といった新経営組織は紹介されているが,日本企業にどのように応用するかにつき,日本企業担当者も日本の経営学者もおよそ考えないか考えられないため,必敗の受注戦略を採っている。
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