世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1602
世界経済評論IMPACT No.1602

アメリカ大統領選挙戦,共和党の自信と焦燥:世論は大統領の言動に「混乱」「困惑」

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2020.01.20

共和党トランプ大統領

 各種世論調査では,トランプ大統領の支持率は常に40%代前半,対する不支持率は50%代前半を示し続けている。言い換えると,トランプはこれまで,支持率が50%を上回ったことがない。つまり,常に不支持率に悩まされる立場だが,強みは,40%代前半の支持率が,どんなことがあっても揺るがないことだ。では,この40%の支持率を支えているのはどんな層か。

 この点から興味深いのは,昨年11月,ピーターソン財団が公表した,トランプ政権の経済政策に関する調査だろう。トランプ政権になってからの暮らし向きに関する質問で,回答者の32%が改善と答え,31%が悪化と答えた。問題はその回答者の内訳である。

 回答者を党派別に見てみると,共和党支持者の61%が改善と答え,悪化との回答は僅か9%だった。対照的に,民主党支持者の内,改善と答えた比率は僅か8%,悪化との答えが50%を占めたのだ。こうした党派別の細目を,全体として総合すると,全有権者の44%がトランプ政策は経済に貢献したと答え,47%が経済を悪化させたと答える結果となるのだ。

 もう1つ興味深い調査がある。昨年6月のピュー・リサーチの調査によると,共和党支持者の53%が,時としてトランプの言動に「困惑する」と答え,同支持者の47%が,「混乱させられる」と答えたとのこと。他方,この同じ質問を全米有権者(従って,当然,民主党支持者をも含む)に投げかけた処,時として,「混乱させられる」が70%,「困惑する」が69%,「腹立たしい」が65%,「無礼だ」が62%,「脅しだ」が56%を示したとのこと。要は,民主党支持者は当然として,共和党支持者ですら,トランプの言動には,ある種の不快を感じているのだ。

 この事実に関して,NY Timesのステファンズ記者は,面白いことを指摘する。多くの共和党支持者は「トランプは悪いかもしれない。しかし,批判者が言う程までは悪くない,と考えていると」(同紙2月26日付)。だから,と同記者は続ける。「トランプを打破する有効な手段は,彼のやることに一々反抗するのではなく,むしろ,彼のやっていることを軽くいなす,つまりは,トランプは異質だ(monumental),などとは言わず,彼をあたかも軽い(insignificant)存在,役割を終えた(past)存在として扱えばいいのだ」と。いたずらに挑戦的になると,トランプ支持者たちも,その挑戦に強固に反応し始める。そんな反応を惹起させねば良いというわけだ。尚,共和党全国大会は8月24日~27日に,ノースカロライナ州のシャーロットで開催される。

議会の対応

 議会下院は昨年のクリスマス前,トランプ弾劾決議を採択した。民主党のぺロシ下院議長は当初,2018年の中間選挙で,共和党有権者の多い選挙区から選出された民主党の1年生議員が苦境に立つことを案じ,弾劾には慎重な姿勢を取っていたが,党内の大勢がトランプ弾劾に向かって走り始めたのを見て,基本戦略を変えた。

 弾劾の理由は2点。第1は大統領としての権力の乱用,第2は議会妨害。第1点の採決には,民主党から2名の造反が出たが,弾劾賛成230,反対197で可決。第2点では,更にもう一名造反が出たが,賛成229,反対198で,此れもまた採択している。こうした状況下,上院共和党のマコ―ミック院内総務は,1月の上院の審議スケジュールを白紙にして,下院からの弾劾書送付を待つ態勢を整えていた。書類を受託した瞬間,主導権は共和党多数の上院に移る。そうなれば,短期決戦で,弾劾裁判を終了させ,後は一気に選挙戦入りの目算だったのだろう(尚,下院で共和党が多数派に返り咲くためには,過半数の218議席の確保が必要となる)。

 だが,共和党上院側の思惑を,下院のぺロシ議長は先刻承知。上院での弾劾裁判に際しての手順や,どの様な場合に新規証人を呼ぶか,或いは,下院では時間の関係で間に合わなかった行政府高官の証人招致等,各種条件が折り合うまでは,弾劾状の上院提出を手控える策に出ている。どこまでこうした保留策を続けることが可能かはともかく,少なくとも当面,こうしておけばトランプ弾劾は何時までも争点になり続けざるをえないし,共和党議員たちにも,選挙に際しての踏み絵を踏ませる効果が出てくるというもの。下院はこの後も,トランプ関連の様々な疑惑に取り組む模様。

 一方,上院では,今年,民主党議員が12名,共和党議員が23名,其々改選を迎える。上院の選挙区は,下院と比べて広大で,且つ任期も長いため,現職の強みが発揮され易いといわれる。そんな中,現状の予測では,本年11月の選挙後も,上院での共和党優位は変わらないとの見通しが多数説のようだが,それでも共和党現職で接戦になりそうなところが幾つかある。民主党側は,そうした選挙区を数カ所重点に選び,少なくとも4議席を奪還するのが目標。そうしておけば,仮に大統領選でトランプが再選されても,上院で優位を確保出来ることになるからだ,それら重点選挙区とは,アリゾナ,コロラド,メイン,ノースカロライナの各州。最近ではそれにジョージアが加わった。この内4州での奪還が,民主党側の取りこぼしがないとの前提で,最優先となっているようだ。反対に,共和党側は,アラバマでの議席奪還を目指すのが目標のようだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1602.html)

関連記事

鷲尾友春

最新のコラム