世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1600
世界経済評論IMPACT No.1600

世界首位を30年譲らないわが国産業の優位性:ハーバード大学が高評価する日本のEconomic Complexity

湯澤三郎

((一財)国際貿易投資研究所 理事長)

2020.01.20

 「ダボス会議でこんな資料を出しているけど日本のメディアはどうしてキャリーしないのだろう」とI団体理事長のK氏から見せられたのが,Harvard’s Growth Lab(H.G.L=ハーバード・成長研究室)発表Economic Complexity Rankingである。

 なんと日本はこのデータを発表し始めた90年代半ばから首位独走と同研究所は解説している。調べてみると1984年からスイスを凌いでこの方30年超,日本の首位独走というレポートもあった。最近は日本をめぐる世界ランキングの各処で,日本の順位下落が目立ち始めているなかでは異色の突出ぶりである。

 Economic Complexityは「経済複雑性」と訳されているようだが,どうもこの訳語だと理解が複雑になって分かりにくい。どちらかと言えば,複雑性よりは多様性の概念に近いと思われる。自己流端的解釈では,産業多角化の広さと深さという概念に近い。ダボス会議のサイトでは「Economic Sophistication」という表現で説明しているようだ。意図するところは「キメの細かい高度(産業分布を擁する)経済」というところだろう。

 H大学Labはかねてから,開発の要として経済の多様性(diversity and complexity)の向上が重要な役割を果たすと考え,各国の産業多様化を60年に亘りフォローしてきた。

 Economic Complexityはいかなる製品についてみても,能力とノウハウを表す尺度になっているという。いわば製品は知識を伝える媒体といってもよい。例えばシャツを作るにしても,デザイン,生地,縫製,包装,ブランド,流通・販売などそれぞれの専門家が関わり,とても一人が頑張ってできるものではない。異業の人々のノウハウが連携して初めてできるものだ。未経験の製品を生産する場合は,そうしたノウハウの蓄積がない。自然と企業は従来製品に近い製品生産へとシフトして行く傾向になる。

 Product Spaceという概念がある。二つの製品の生産に必要な能力の距離感を表す概念である。どの製品が従来製品のノウハウに近いかを図るのに有用な尺度になっている。

 科学的アルゴリズムを駆使してこのP.S.を800製品について分析して,34分類に色分けした。

 同研究室がThe Atlas of Economic Complexity; Mapping Paths to Prosperity およびThe Atlas Online で発表した128か国の結果は,各国が生産する製品間の能力的距離感をビジュアライズしている。例えば,A国がある製品を生産していて,もう一つ別の製品生産に乗り出す時に,どの程度容易にノウハウを取得できるかを推定できることになる。この概念を活用すれば,成長の進展ぶりを予め見通すことが可能になる。

 この概念と問題意識に基づいて,いわば産業の成長余力を128か国について測定したのがEconomic Complexity Ranking(A Structure Ranking of Economic Complexity; Ulrich Schetter, Nov.2019)であり,日本が世界に冠たる余力を秘めているというわけである。かねて日本の裾野産業の広さが製造業競争力を支えてきたと理解していたが,これを計量的に示したものと言えるのではないか。

 世界ランキング(2016年貿易データHS4桁に基づく)の2位以下は,スイス,ドイツ,韓国,シンガポール,英国,スェーデン,オーストリア,チェコ,米国でベスト10になる。EU,欧州各国はおしなべて30位以内にランクしているが,このなかには中国(24位),メキシコ(27位)が含まれている。ロシアは40位であった(別の研究者レポートによればスイス2位,フィンランド8位,ハンガリー10位,米国12位など若干の順位変動が見られる)。アジアでは香港30位,タイ34位,フィリピン43位,インド47位,ベトナム67位,インドネシア69位など。

 この指標は企業の対外直接投資の相手国選定の水先案内情報になる。製品の販売,輸出に関わる関連産業の存在を占う指標になるからである。

 また日本の指標の高さは,外資に対して多角的な産業受容性を示すものと解釈される。現状は日本の対内投資が対外投資のわずか7%という比率は,主要国間で飛び抜けて低く,外資ビジネスへの壁を各国から指弾されている。

 一方,日本の高得点を輸出の観点から考えると,多角的且つ多様性ある産業が業際間連携,企業間連携を容易にして高いシナジーを生むことから,より高度・高品質の製品生産を可能にして輸出競争力強化に有利であることを示しているようだ。

 この連携も競合国とのコスト競争には直接の効果を生みにくく,企業自身がサプライチェーンの海外展開に本腰を入れ始めたことよって,優位性が崩れ始めている。

 しかしながら,他の並み居る各国を尻目に30年も首位を維持していることは,日本が新製品開発の余力を秘める最右翼に在るということでもある。改めてわが国産業の立ち位置を見直しても良い。最近,貿易収支尻の黒字基調が怪しくなってきた。自動車,製造機械等限られた製品輸出に,長いこと支えられたわが国輸出の新地平が拓けていないことに先行きの懸念なしとしない。2050年には世界人口の87%を途上国・新興国が占める。海外市場の景色は今とかなり異なるはずだ。87%市場を目指した新製品開発は日本の輸出に弾みをつけ,地域産業を活性化させる展望を拓くだろう。

 Economic Complexityとは新産業開発余力であり,日本は新製品開発に強力な産業基盤を擁していることを再認識したうえで,国を挙げて果敢な戦略を立てるべきだと催促しているようだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1600.html)

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