世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1545

入試改革から日本の経済政策について考える

飯野光浩

(国際貿易投資研究所 客員研究員)

2019.11.18

 2019年11月,2020年度から実施される予定だった大学入学共通テストでの民間英語試験の導入が延期された。日本経済新聞の入試改革の特集記事(2019年8月30日,31日,9月2日~4日)によれば,この改革の本来の目的は,グローバル化や働き手の減少という社会構造の変化への危機感を背景にして,人材の質の向上を飛躍的に高めることである。そのために,知識偏重や1点刻みの入試から脱却することであった。しかし,具体的な作業は難航して,高校生の基礎学力テストや共通テストの複数回の実施は見送られた。入試改革は徐々に矮小化されて,英語の4技能をはかるという目的で民間試験の導入へと議論が集中し,かつ2020年度の導入ありきになった。この英語民間試験の導入も,目的や性質の異なる数種類の試験の成績を比較することへの異論が絶えず,根拠不明のまま,期限ありきで推進してきた。その結果,大きな混乱を生み,民間英語試験の延期という事態になった。

 これまでも何回も入試改革や教育改革を行ってきた。つめこみ教育からゆとり教育,そして,脱ゆとり教育へと変遷して,今に到っている。ここでの問題点は,その成果を客観的に評価することなく,ときの政権の意向や有識者会議の意見を中心として改革を行っていることである。

 現在,政策を考える際には,客観的なデータや実証研究の成果も踏まえるべきであるとする主張がよく聞かれるようになった。これは証拠に基づく政策立案(EBPM:Evidence Based Policy Making)と呼ばれ,その重要性が高まっている。この問題もこれに基づいて考えるべきである。特に,教育は人的資本の蓄積に決定的に重要である。しかし,この投資の収益の実現にはかなりの時間がかかる。幼稚園,保育園などの幼児教育から大学卒業までは約20年かかる。したがって,政治家や有識者などの意見や信条,ときの政権の意向のみで決めるのではなく,客観的なデータや実証分析に基づく議論を実施する必要がある。

 入試改革を通じて透けて見えることは,この問題が構造的なものであるということである。これは経済政策にも見て取れる。現在,日本経済は,安倍政権の経済政策,アベノミクスの下で,経済改革を実施している。しかし,そのアベノミクスの変遷にも上記の構造的な問題を見て取れる。経済政策でもアベノミクスの3本の矢から新アベノミクスの3本の矢へと,従来の政策の評価などはなく,唐突に新たな経済政策が打ち出された。また,アベノミクスの重要な矢である成長戦略も2015年に一億総活躍社会,2017年には人生100年時代構想,2019年には全世代型社会保障と,次々と構想が打ち上げられた。しかし,ここでも,これまでの経済政策や改革の効果を検証することなく,新たなものを次々と打ち出している。

 以上のことから分かるのは,ときの政権の意向やそれを支える政治家や有識者の意見,信条を中心に改革を進めることの危うさである。過去の政策や改革の効果を客観的に評価することなく,新たなことをするのは,望ましくない。フィードバックすることなく,次々と新たな政策を打ち出すのは,時間,人的資源やその他の資源の非効率な使用を招く原因となりかねない。グローバル化やデジタル化で日本を含む世界の情勢が急速に変化する中で,貴重な資源の無駄な使用は削減されなければならない。このような状況は,大至急,改善する必要がある。

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