世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1534

人口減少社会における自然災害に強い都市づくり

戸所 隆

(高崎経済大学 名誉教授・(公社)日本地理学会 前会長)

2019.11.11

 強烈な台風や50年に一度の豪雨など異常気象による甚大な災害が近年頻発している。こうした異常気象の発生頻度を考えると,もはや恒常的気象現象と捉えて災害対応をする必要がある。それには従前の都市づくり・地域づくりを主導してきた開発哲学を転換させねばならない。本稿では土地利用の観点から自然災害に強い都市づくりを考えてみたい。

 現在の都市づくりの基本となる土地利用・都市計画規制は,高度経済成長期における都市化の圧力をいかに制御するかの視点で構築されている。それは経済成長と人口増加に対応するため科学技術を活用した人間の力で自然を克服し,生活利便性向上を図ろうとする開発哲学に基づく。その結果,低地価で広大な遊水池的機能を持つ農地での大規模開発や地滑り等の生じやすい問題地域での住宅開発など,土地条件を無視し効率と経済性を優先した市街地開発が増加した。他方で,人口減少によりコンパクトなまちづくりを企画しても市街化区域の人口密度要件(40人/ha)を満たせないため,市街化区域・市街化調整区域の線引きができず,無秩序な市街地の規制もできない。現行制度では人口減少社会のまちづくりに対応できず,法体系・制度の再構築が求められる。

 日本は1960年代の高度経済成長期から1995年の阪神淡路大震災まで,幸いにも伊勢湾台風クラスや巨大地震に見舞われなかった。また,この間の経済成長や防災技術を活かして構築されたダムや堤防・防潮堤等の防災設備に守られたこともあり,様々な安全神話が生まれ,国民に精神的無防備状態が醸成されてきたといえよう。しかし,東日本大震災で多くの巨大防潮堤が津波で破壊されたことからも理解できるように,人間の力で自然現象を制御できない。また,2019年10月に千葉・長野・福島・宮城県を中心に東日本各地で発生した豪雨による被災地域の多くが,長野の新幹線車両基地を含めハザードマップで浸水危険地域と示された自然条件脆弱地域である。さらに日経新聞(2019.10.30)によれば,全国の工業団地の4分の1が浸水リスクを抱えているという。こうした地域の多くは高度経済成長以降に開発されたところである。工業生産が災害により停滞すれば,日本のみならず世界のサプライチェーンに与える影響は甚大となる。

 人間は災害から確実に逃れることも,災害を完全に制御することもできない。これからは財政的に厳しい人口減少社会の中で,自然災害の脅威にさらされながら,都市づくりをしなければならない。そのためには,効率と経済性を優先して自然条件を無視した都市づくりから,新しい開発哲学に基づく都市づくりへ転換する必要がある。すなわち,自然の摂理を十分に認識し,人間も自然の一部として共生するために科学技術を活用した減災型まちづくりであり,強者の論理・資本の論理中心の政策から弱者の論理・地域の論理中心への転換,メガスケールからコンパクトなヒューマンスケールの開発へ転換することが重要となろう。

 たとえば洪水を連続堤で抑え込むだけでなく,遊水池や霞堤,導水路により自然破壊力を軽減させた先人の知恵に学ぶ必要があろう。それには,自然条件を無視して開発された土地利用を計画的かつ長期的に農地や遊水池に戻すべく,安全な地域に人口・都市機能を集約する政策が不可欠となる。人口減少社会でも計画的誘導を図らない限り市街地面積の縮減は起こらず,いわゆる空き家・空き地が点在するスポンジ型市街地となり,災害危険地域の縮小にはならない。それには地理的条件を明確に認識し,歴史に学ぶ国づくり・都市づくりを推進する国民の意識改革が不可欠となる。新しい開発哲学を創出するためにも時空間現象を理解する地理・歴史教育と哲学的思考力育成の強化が重要課題となる。

 自然の摂理を十分に認識して必要最小限の国土強靱化に努め,自然と人間の共生で減災は図れる。人口減少社会に適した法体系・制度の再構築と,それに基づく長期計画による自然と共生した災害に強い国土構造と地域社会を築くことが早急に求められる。かかる構造変革により,知識情報社会に対応したイノベーションも惹起し,これまでとは質的に異なる新たな経済発展社会も実現できるであろう。

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