世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1518
世界経済評論IMPACT No.1518

中国の減少する生産年齢人口への対応策とは?

岡本信広

(大東文化大学 教授・国際交流センター 所長)

2019.10.28

 今年1月の中国国家統計局の定例記者会見では,2018年の全就業者数が7億7,586万人と2017年の7億7,640万人から54万人の減少だったことが発表された。この減少は1961年以来である。この数値について国家統計局は何もコメントがなかったようだが,この減少には生産年齢人口自体が減っていることが関係している(箱崎 2019)。

 国連の統計でみてみよう。中国の生産年齢人口(15歳から64歳)は2010年をピークに急速に減少しはじめている。中国の改革開放初期の1980年は,全人口に占める生産年齢人口割合は59%であり,2010年までに74%まで上昇した。つまり改革開放以降の30年間は生産年齢人口が増加してきており,これが中国の経済成長を支えてきたと考えられる。

 経済成長を支えるのは労働力と資本,そしてその他の要因である。その他の要因を経済学では全要素生産性と呼び,インフラ整備による社会効率の上昇や,単純な機械がAI等で進歩したり,労働者の教育水準が上がって生産性が向上したなど,目には見えにくい効率の上昇分である。

 さて,経済成長を支えた労働力は今後減ることが予想されている。国連の予測では,2040から2050年の間に,言い換えればあと20年から30年で,生産年齢人口は1980年の水準60%程度に戻りそうだ。

 中国は習近平時代に入ってから「供給側構造改革」を掲げるようになった。主要な論点は労働力不足をカバーする生産性の向上,例えば,イノベーションや産業構造の高度化(付加価値の高い産業への資源の再配分),そして国有企業改革である。とはいえ,これらは労働供給力の増加には関係ない。

 労働供給力を増加させるにはどうすればいいか。労働力の教育水準を上げることによって労働生産性を高める,定年を引き上げる等の方法が一般的である。中国でも今世紀に入って急速に大学入学定員が拡大し,前者の改革は行ってきた。後者の定年引上げは大学卒業者など新規の労働市場参入者の職が減ることにつながる可能性もあり,また日本のように年金制度への不安をあおる可能性もあるため,政治的に強い決断が必要となるので当面はないだろう。

 中国で考えられる労働供給力の増加は,労働の地域間再配分の改善とその集約的利用である。具体的には,重要な労働供給源である農民の教育水準を上げるとともに自由な移動を促す。一般的に農民は都市を目指し,都市部でその労働力が集約的に利用できるようにするのである。他の研究でも,現在世界で行われている移民制限を全部撤廃すれば世界のGDPは現在の50%から150%増加するともいう(Clemens 2011)。②人の集約化,すなわち一地域への集中によって経済成長を促す。例えば,Glaeser(2011, p.7)は都市人口比率が10%増加すると一人当たりのGDPは3割上昇する,という。

 このような意味でも中国の都市化は労働供給力の改善にとっても重要な施策であることがわかるであろう。

[参考文献]
  • Clemens, Michael A. (2011) Economics and Emigration: Trillion-Dollar Bills on the Sidewalk?, Journal of Economic Perspectives, 25(3), 83-106
  • Glaeser, Edward. (2011) Triumph of the City, London: Macmillan
  • 箱崎大(2019)「中国の就業者数,57年ぶりに減少」『JETRO地域・分析レポート』(2019年10月23日アクセス)
  • 関志雄(2017)「「供給側構造改革」への提言」『RIETI中国経済新論:実事求是』(2019年10月23日アクセス)。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1518.html)

関連記事

岡本信広

最新のコラム