世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1509

日中韓FTAと日中韓の第三国市場協力の可能性

石戸 光(千葉大学 教授)

韓 葵花(千葉大学 特別研究員)

2019.10.14

 東アジアにおける経済統合の進展が遅い中,安倍晋三首相とトランプ大統領は2019年9月26日,日米貿易協定に最終合意した。米国のTPP離脱により,日本は貿易総額に占める発効済みのFTAの割合,FTA比率が36.7%であったが,今回の協定が締結され発効すると51.6%となり,安倍政権が『未来投資戦略2018』で目標としている「2018年までにFTA比率を70%に引き上げる」ことに一歩近付くことになる。

 日本の主要貿易相手国上位3カ国は2018年の輸出額でみると,中国が1位,米国が2位,韓国が3位であり,全体の輸出額に占める割合はそれぞれ21.7%,14.9%,5.7%になる。日本は現在17の経済連携協定(EPA)が発効済みだが,上位3カ国である中国・米国・韓国とはEPAが締結されていなかった(周知のとおり,米国を含むTPP12が提案されたが,これは米国の離脱により発効されてない)。今回の日米貿易協定の締結が発効へと至り,また交渉中にある日中韓FTAが同様に締結となれば,安倍政権の目指している70%の目標は達成可能性が高くなる。また,日中韓における産業内貿易は,工業分野の中間財取引を代表とするサプライチェーンとして形成されてきたため,短期的には(特に日韓間で)中間財・原料に対する輸出規制の適用がみられるものの,長期的には,日中韓FTAに対する期待は三国すべてにとって大きいはずである。

 ここで視点を「第三国」に転じると,2018年9月25日に北京ではじめて開催された日中第三国市場協力フォーラムでは日中企業間で52の協力覚書が署名され,これらは日中にとって第三国としてのタイの経済区である「東部経済回廊」で両国は協力していく内容となっている。日中第三国市場協力は,日本政府の「インフラシステム輸出戦略」の1つであり,中国政府の「一帯一路」の一環でもある。短期間で大企業による数多くの覚書の締結,そしてそのプロジェクトを可能な限り急ピッチで実施するのは,これまでの日中間の協力でははじめとなる。米国の自国保護主義ではじまった去年からの米中貿易摩擦,日本による韓国のホワイト国除外からはじまった日韓貿易摩擦など,貿易自由化とはかけ離れた状況の中で,タイでの日中第三国市場協力は,内向きの競争から外向きの協力へと視点の転換になりうる。東部経済回廊の現地においては,現在のところ,たとえば日中双方の資本参加による共同のインフラプロジェクト,といった形には必ずしもなっていないようであるが,まずは広い意味において同回廊での「協力」(たとえば現地における中間財・サービスの相互供給)が進展していくことが期待される。

 今年の8月21日に中国で第9回日中韓外相会議(2004年6月に第1回会議が開催,2016年8月に第8回会議が開催されて以降,3年ぶり)が開催された。会議では,「第三国」で日中韓が協力することに合意し,それを「三か国+X」協力と表現した。中国の外交部は2019年8月19日の広報資料「中国は中日韓外交部長会議が三国協力の未来発展を企画することを期待する」で,三国協力の今後の発展を展望し,共同で地域の平和と安定を維持するとしている。韓国の中央日報電子版の当日の記事「『韓中日+X』協力合意 韓中日手を握り三国市場進出」では,韓日の葛藤が深刻になっている最中に開催された第9回韓中日外務大臣会議では三国の経済協力に関して「韓中日+X」協力システムにすることに合意し,現在中日が協力して第三国であるタイ市場に進出しているが,その協力システムを韓中日での協力体制に代替させるようだ,韓中日三国は揺るぎ無い三国の協力の重要性を強調した,と伝えている。

 一方で,進展が遅いと指摘される日中韓FTAは,2019年4月に第15回交渉会合が開催された。また日中韓三国が参加国になっている東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は,2019年の2月,6月,7月,9月に第25回~第28回RCEP交渉会議が,2019年3月,8月に第7回~第8回中間官僚会合が,9月に第7回RCEP閣僚会合が開催され,年内の締結が期待されている。

 日中韓におけるこれらの重層的な地域統合・経済協力の動きが中長期的には相乗効果となり,日中韓FTAの交渉が日中韓「三か国+X」協力と共に進展していくことが期待される。

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