世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1468

日本の貧困対策について考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2019.09.02

 日本の貧困率は高止まりしている。厚生労働省によると,相対的貧困率は2006年に15.7%,2009年に16.0%,2012年に16.1%,2015年に15.7%とほとんど変化していない。日本はアベノミクスにより,経済成長をしているが,貧困率には影響を与えていないことが分かる。つまり,経済成長は重要だが,それだけでは貧困率は減少しないことを示している。

 このような背景から,近年,日本の貧困について関心が高まり,経済学,社会学などさまざまな視点から議論されている。本コラムでは,途上国支援との関連を念頭に置いて,日本の貧困対策について,考えていく。

 初めに思うことは,日本の貧困対策から透けてみてくる思想は,パターナリズムというか父系的な考え方である。つまり,上から目線の対応である。それは生活保護を見れば分かる。生活保護は所得がゼロであれば,自動的に支給されるものではなく,自分で窓口に申請しなければならない。また,その後にミーンズテストという資力調査が行われる。これは,申請者やその申請者の扶養義務のある親族の資産や所得を調べて,本当にお金がないのかを確認する。つまり,申請者が本当に貧困状態にあり,その扶養義務のある親族もお金に余裕がないのかを確認するのである。その確認した上で,ようやく生活保護が認められる。このような制度では,政府が父親的な存在で貧しい者達にお金を支給してやっていると捉えることもできてしまう。しかも,申請者は自分が貧困であることを公に名乗り出なければならない制度であるので,申請をためらう要因にもなってしまう。

 さて,現在,ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)と呼ばれる制度が貧困対策として注目を集めている。この制度は,所得に関係なく,ある一定額をすべての国民に支給するものである。この制度の興味深い点は,経済的な保守(右派)と革新(左派)の両方から支持がある点である。右派はUBIに社会保障制度を一本化することによって,小さな政府が実現できるとして支持し,左派は所得に関係なく平等にお金を支給するという点を支持している。さらに近年は,AIなどの科学技術の進展で職を失う人への保障制度としても支持されている。

 社会保障制度が重層的に構築されている今の日本にこのUBIをそのまま導入することは,難しい。重層的に構築されている社会保障制度を解体して,UBIを導入することは,大変なコストがかかるからである。したがって,現実的には,UBIの精神に沿って,現在の生活保護を改善していくことである。具体的には,支給までの手続きを簡素化することである。現在実施しているミーンズテストは廃止して,所得がある一定水準を下回ったら,自動的に生活保護を支給するように制度を変更するのである。これは,ある所得水準以下の者は差別なく,支給するので,UBIの精神に沿ったものである。また,現在はマイナンバー制度があるので,個人の所得を把握することは可能なはずである。

 途上国の援助では,パートナーシップがよく強調される。これにはいろんな意味があるが,支援を受ける途上国と支援をする先進国が対等な立場に立つということも含んでいる。日本の援助でもパートナーシップを掲げており,これを日本の貧困対策にも適用することが必要である。UBIにはこのパートナーシップの意味合いを含んでいる。したがって,この方向に沿って,生活保護を改善していことは,貧困に苦しむ人たちに寄り添うようなものにしていくだけではなく,途上国支援と貧困対策の政策一貫性を高めることにもなる。

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