世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1456
世界経済評論IMPACT No.1456

中露爆撃機竹島上空飛来を含む朝鮮半島情勢と中露の蜜月と分断

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2019.08.26

 WSJが7月23日に配信した“Russia-China Air Patrol Draws Fire From South Korean Jets”によれば,“ロシアのA-50航空機が,韓国と日本の間の海域で韓国が管理する竹島の上の空域を飛んだ。それに応じて,韓国の防衛省は,18機のジェット戦闘機をスクランブル発進して360機の銃弾とフレアを発射したしたと語った。

 これは同記事によれば,“ワシントンとアジアの同盟国に新たな挑戦をもたらすモスクワと北京の間の新軍事的パートナーシップの一部である。(中略)昨年,中国軍をロシアの年次戦略的軍事演習に参加するよう招待した。”という重大な問題を指摘している。

 7月24日にニューズウイークが配信した“Russia May Be Testing U.S. Military’s World Order with Air Fight Over Asia”でも,これらの事実に言及しつつ「日韓の対立は貿易問題に発展し,関係はさらに悪化している。このタイミングでアメリカの最大のライバルである中ロの軍事訓練が初めて行われたことは,両国の関係が新しい段階に達したことを表すのかもしれない」(Newsweek日本版より引用)と結んでいる。

 そしてForeign Policyが7月30日に配信した“K-Pop’s Big China Problem”によれば,“韓国の輸出の25%以上が中国へ,さらに12%が米国への輸出”であるという。

 つまり今となっては韓国は日米よりも中国に近いと見るべきなのである!

 逆にワシントン・ポストが7月25日に配信した“North Korea fires ‘new type of ballistic missile’ into sea toward Japan”を読むと,この日に北朝鮮が発射した短距離弾道ミサイルは,私見では米国の如何なるミサイル防衛システムも掻い潜ることのできる,ロシア製のイスカンダル・ミサイルである可能性が高い。同じワシントン・ポストが6月27日に配信した“Did Xi Jinping’ Pyongyang visit restart denuclearization diplomacy?”によれば,中国が国連や米国による北朝鮮制裁に協力したため,両国の貿易は2018年には前年比90%減だった。

 つまり今の北朝鮮は,中国よりロシアと極めて近い間柄なのである!

 もし今まで述べて来たように韓国と中国,北朝鮮とロシアそしてロシアと中国が一体化して行くとしたら,それは日米にとって大変な脅威である。

 エコノミストが7月27日に配信した“Partnership is much better for China than it is for Russia”によれば,中国の経済は購買力平価でロシアの6倍であり,ロシアとしては中国との協力で経済力を向上させることによって,西側に対峙する誘惑に駆られても不思議はない。ロシアがドルの覇権を回避しようとしているので,人民元は外貨準備の14%を占めるようになっている。先月,ロシアは5Gを開発するためHuaweiとの契約を結んだ

 ロシアは中国にしっかりと結びつけられてしまったとも見られる。

 しかし以下のような諸問題が中露間には未だ横たわっているのである。

  • 1.ロシアの経済はプーチンと結びついた財閥等の力の強い不安定なものであり,そのため中国としても本格的な対露投資には躊躇している。
  • 2.人民解放軍はタジクに軍隊を配置し,ロシアに相談することなく演習を行っている。
  • 3.中国がシベリアに拡大しているという恐怖をロシア人は未だ憂慮している。

 そのためWSJが7月24日に配信した“China Promises Further Military Cooperation With Russia”によれば,中国は中露両国の爆撃機等が竹島周辺に飛来した翌日,「新防衛白書」を発表。今後はロシアとの協力を強化して米国の外交政策等に対抗して行くと警告している。

 しかし同時に,中国は「同盟ではなくパートナーシップ」を望んでいるとも述べているのである!

 そのためかWSJ7月23日前掲記事によれば,モスクワと北京の間の軍事協力は,テクノロジーの面で未だ完全にハッシュ化されていないので今後はレーダー等の相互運用が問題になるのではないか?―という。

 これなら中露間に楔を打ち込むことは不可能ではない。

 例えばニューズウイーク日本版が7月23日に配信した「輸出規制で在庫確保に奔走する韓国企業トップ」によれば,「韓国政府は(捕捉:日本の禁輸措置に対抗するため)部品や材料研究開発(R&D)に対する税制支援を拡大する方針を定めたが(中略),韓国中小企業の核心技術は米国から1.9年,ドイツから1.6年,また日本からは1.8年遅れている。(中略)韓国製品が日本製品を代替しうる品質に到達する頃には,(中略)日本の技術はさらに進んでいるだろう。(中略)日本からの輸入依存に戻る可能性も否定できない」(ニューズウイーク日本版から引用)と指摘している。

 これは米露中の関係にも応用可能な考え方のように思われる。アメリカの中国に対する半導体禁輸等が続けば,中国の5Gその他のハイテク優位が崩れるかも知れない。そうすれば通常の通信システム一体化の切断だけではなく,軍同士のハッシュ化も妨げることが出来るかも知れない。

 そして中国に変わってロシアに積極的な投資を行うことは急務ではないだろうか? エコノミスト7月27日配信前掲記事の末尾では,そうすればロシアは西側に戻って来るだろうと結ばれている。

 そしてロシアと米国の協力関係が部分的にでも深まれば,今まで述べて来たことからして,北朝鮮も今より親米的になる。韓国は日本の禁輸政策の影響で,むしろ日米側に戻って来る可能性には言及した。

 そうなれば中国を孤立させることが出来る。それが実現されることを一日本国民として願って止まない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1456.html)

関連記事

吉川圭一

最新のコラム