世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1418

中国:「人の都市化」は進んでいるのか?

岡本信広

(大東文化大学 教授)

2019.07.22

 習近平政権の大きな目玉は「都市化」の推進である。2013年末に改革開放以降はじめての中央城鎮化工作会議を開催し,2014年3月に「新型都市化計画(2014〜2020年)」が発表された。2015年にも中央都市工作会議が開催され,2016年には「新型都市化建設を深く推し進めることに関する若干の意見(关于深入推进新型城镇化建设的若干意见)」が通達された。同時に2016年には「一億人非戸籍人口の都市定住を推し進める方案通知(推动1亿非户籍人口在城市落户方案的通知)」が出された。

 以上は国務院による通達であるが,担当部局である国家発展改革委員会は2016年に「国家新型都市化報告2016」を上梓し,2017年には「新型都市化建設を速く推し進める行動方案(加快推进新型城镇化建设行动方案)」,2018年には「2018年新型都市化建設を推進する重点任務の実施に関する通知(关于实施2018年推进新型城镇化建设重点任务的通知)」,そして今年(2019年)3月には「2019年新型都市化建設の重点任務(2019年新型城镇化建设重点任务)」を発表している。

 この2019年の重点任務における大きな変化は,農民工の都市定住の要件が緩和されたことにある(重点任務の全体概要は劉(2019)に譲る)。これまで人口規模100万人以下の都市だけが無条件に都市戸籍に転換できるとされていたものが,「Ⅱ型大都市」(100万〜300万人)も制限を全面的に撤廃するとともに,「Ⅰ型大都市」(300万〜500万人)でも戸籍移転制限が全面的に緩和されることとなった。

 この背景には,「人の都市化」,都市で働く農民工の戸籍移転が進んでいないことを意味している。

 国家統計局(農民工観測調査)によれば,2012年の農民工数は2億6261万人,そのうち戸籍所在地から離れて出稼ぎに行っている農民工が1億6336万人であった。2018年には農民工総数2億8836万人,うち出稼ぎ農民工が1億7266万人である。

 中国の都市化率をみてみよう。中国の都市化率には二つある。一つはその場所に住んでいる常住人口による都市化率,そして戸籍がその都市にある戸籍人口による都市化率である。2012年の常住人口都市化率は52.57%,戸籍人口都市化率は35.33%である。2018年になると常住人口都市化率は59.58%,戸籍人口都市化率は43.37%であった。「新型都市化計画(2014〜2020年)」では,2020年までの目標を常住人口都市化率60%前後,戸籍人口都市化率45%前後と設定していたので,本目標は来年でほぼ達成が可能であろう。

 常住人口と戸籍人口の差がいわゆる戸籍はないが都市に在住している農民の割合である。上記の数値の差を計算すると,2012年17.24%,2018年16.21%であり,2018年のデータで推計すると,都市に在住しながらその都市の戸籍を持っていない農民は2億2619万人であり,農民工観測調査よりも少し小さいが依然として都市に2億人以上の農民がいることがわかる。

 なぜ農民工の都市戸籍の転換が進んでいないのか? これには政府側の要因と農民工側の要因が指摘できよう。政府側の要因としては,公共サービスの提供に関わる負担などから誰彼と構わず戸籍を与えるわけにはいかない。基本的にはその都市経済の発展に役立つと思われる高学歴人材に戸籍を与える傾向があるため,大多数の単純労働者は簡単に戸籍はとれない。農民工側の要因としては,戸籍所在地の土地権益を手放したくないという誘因が働いている。具体的には農村の土地は集団所有地であり,その運用で得られる配当や宅地使用権である。これらを手放してまで都市戸籍を持つということは将来の保険を失うことを意味するからである。

 戸籍人口都市化率の数値は確かに上昇しているが,農村に扱われる県が都市に扱われる市に昇格するというケースも少なくなく,実際の「人の都市化」は依然いばらの道なのである。

[参考文献]
  • 劉家敏(2019)「2019年における新型都市化建設の重点任務」『みずほ中国政策ブリーフィング』(https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/china-bri/cb190523.pdf,2019年7月15日アクセス)

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