世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1396
世界経済評論IMPACT No.1396

「中関村サイエンス・パーク」産業集積から「中国製造2025」そして「一帯一路建設」へ

朽木昭文

(日本大学 教授)

2019.07.01

1.北京のイノベーション活性化は「中関村サイエンス・パーク」(ZSP)

 2006年に,北京市には,39の大学と213の研究所があり,人材が豊かであった。全国の博士号取得者の3分の2が北京市に集中している。北京大学,清華大学,中国科学院(CAS)などが「中関村サイエンス・パーク」(ZSP)の発展に中心的な役割を果たしたことを以下で説明しよう。また,「北京市政府中関村サイエンス・パーク区管理委員会」がZSPの発展をリードしている。

 2018年の10〜12月だけでも,北京市では日々いくつかの面でイノベーションに係る進展がある。北京大学,清華大学,中国科学院など30の組織が,「ヒトフェノム研究グループ」を設立した。北京市は,「インテリジェント・コネクテッド・ビークル」産業白書を発表し,中国工業・情報化省がその発展を目指す。中国科学院・計算技術研究所は,「オープンソース・チップ・エコシステムづくり」を推進する。北京市は,「中関村集積回路設計産業パーク」を開設した。

 フォーチュン世界500大企業の構成をみると,北京の産業集積政策の重要性が明らかになる。2017年の世界500のうちで中国企業は,合計103企業である。ちなみにアメリカが134である。そのうちで企業数が多いのは,北京,上海,深圳であり,それぞれ56,6,8企業であり,北京の56企業のうちで国有企業の数は,52である。この数に,中国政府の政策的な成功を見ることができる。

2.ZSPとは

 ところで,1988年設立の「中関村サイエンス・パーク(ZSP)」産業集積は,1980年代の深圳経済特区,1990年代の上海浦東開発区に続く,21世紀の戦略的な地域開発としての産業集積政策である。当初に,北京市にある中国科学院(CAS)と中国工程院のアカデミー会員数は全国のアカデミー会員数の37%を占めた。

 北京のZSP成功の要因は,北京大学,清華大学,中国科学院などからの「スピン・オフ」,ZSP管理委員会による「地域イノベーション・システム」,「産官学連携」の3つがある。

 そして,ZSP産業集積の成功要因は,海外からの人材を登用するため優遇措置としての第1の①「北京戸籍」の付与,第2の②「ファンド」の設立が有効に機能している。「北京戸籍」の取得は,中国では非常に大きなインセンティブとなっている。また,「ファンド」が,技術基準のため,融資保証,パテント推進,株式保証融資,オープン・ラボのため設立され,特に近年は利用が拡大している。

 北京市政府「ZSP管理委員会」の役割がハイテク産業集積の成功の鍵であった。北京市政府の下に中関村サイエンス・パーク管理委員会があり,その管理の下に1988年に5つの科技園(サイエンス・パーク)で始まり,2005年時点で7つの科技園,2019年時点で16の科技園となり,それぞれに管理委員会がある。ZSPの特に大きな園は海淀園であり,他には電子城科技園,昌平園,豊台園などがある。

 北京市政府中関村サイエンス・パーク管理委員会の管理の下に2006年時点で約17,000社が入居し,急速に入居企業が増加している。そのうちの最大の科技園が海淀園である。海淀園は20地区からなり,そのうちの1つが清華科技園である。清華科技園にはグーグル,NEC,P&G,サン・マイクロシステムズなど約400社が入居する。つまり,ハイテクパークの運営は,北京市のもとに「中関村科技園」があり,その中のパークの1つに「海淀圏」があり,その中に例えば「清華科技園」がある。この3者が,ハイテクパークの産業集積に有効に機能している。北京市のZSPにハイテク企業の集積をもたらすためには,北京市人民政府のリーダーシップが大きな役割を果たしてきている。

 2006年に,ZSPには,39の大学と70万人の学生がおり,75の国立工学研究所,71の国立重要実験所があった。また,ZSPの17,000の企業には,69万人の雇用,4,800億元(約600億ドル)の総収入がある。総延長道路は,130㎞に及んだ。海淀区の当初の計画面積は,217平方キロメートルであったが,2019年には488平方キロメートルに増大した。

 人材の面でも海淀園が研究所と研究員の数が多い。企業数では,2002年に約9,500であったが,2005年に17,000まで増加した。従業員数でも2002年に約40万人であったが,2005年に69万人に増加した。その他工業生産額,輸出による外貨獲得額,納税総額のいずれも急激に増加した。

3.ZSPが中国製造2025のカギ

 中関村で成長したユニコーン企業は,小米,百度,レノボ,JD.com,Letv,aigoなど多数存在する。中関村国家自主創新試験区の企業数は,2014年に16,000社であったが,2015年に27,668社,2018年7月には39,000社まで増加した。

 以上のような中関村サイエンス・パークの成功が,「中国製造2025」のハイ・エンド製造業の産業集積における成功を支える。これが中国の産業政策の起点となる。ロー・エンド製造業は,一帯一路参加国へシフトする。この点で分業体制ができ,「一帯一路建設」が進む。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1396.html)

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