世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1367

アメリカ人とは誰か?:トランプ一家は二大政党制を解体できるか?

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2019.05.27

 Time誌が5月16日に配信した“President Trump Introduces Kushner Immigration Plan to Overhaul Green Card System”によると,トランプ大統領は同日メリット・ベースの移民政策——つまり高度技能者中心の移民政策に米国の移民政策を転換することを表明。これは既にカナダやオーストラリアで採用されているものである。そして記事の題名にもあるように,これはクシュナー顧問の発案だという。これは今までの既に米国に定住している人の家族を移住させる方式と異なるため民主党は反対。共和党も移民の数を減らさないため賛成ではないという。

 ところがリベラル系The Atlanticが“Trump’s Immigration Proposal Is a Step in the Right Direction”という賛成に近い記事を出していて,保守系のWSJが“Trump’s Immigration Progress”という反対に近い記事を出している。

 この両記事によれば,今までは米国の永住権を獲得した人の内67%が既に米国に家族のいる人,13%が難民で,仕事関係での移住は12%程度だったという。トランプ氏の案は,仕事関係を57%に増やし,家族関係を半減させることにあるという。現在アメリカでは,建設,運輸,余暇産業を中心に750万人もの低賃金労働者への求人がある。にも関わらず高技能者中心の移民政策に切り替えるのは労働力不足を招くとWSJは批判している。同じ理由でカナダも低賃金労働者向けのビザも発行しており,日本でさえ低賃金移民の受け入れを始めているではないかとWSJは主張。米国も日本同様の少子化が—移民を入れなければ—32年も続いているという。The Atlanticもカナダでも家族の合流とメリット・ベースの両方を加味した移民政策を行なっていると指摘。類似した方向にトランプ政権の移民政策が改良されれば,非熟練労働者が米国民と結婚することで米国籍を得るような不自然な現象をなくすことが出来るとも読める主張が展開されている。

 何れにしてもFederalistが5月20日に配信した“Merit-Based Immigration Reform Is Precisely What America Needs”によれば,カナダでもオーストラリアでも,仕事関係の移民が6割を超えている。そして彼らの9割前後が働いているという(因みに生まれつきのオーストラリア国民の労働率は67%)

 そこで両国が採用しているインターネットを使って移民希望者が20分くらいの質問に答えることで,その人が移民して来る必要性を採点するシステムの米国への導入も,この記事は主張している。

 実はワシントン・ポストが5月20日に配信した“Trump suddenly takes a softer line on verifying immigrant documentation status”によれば,このカナダやオーストラリアの制度と類似したE-Verifyというシステムが米国にもあるのだが,これを使って求職者が不法移民でないかどうかをチェックするのは,特に中小の農業経営者にとっては機材の関係等で難しく,そのため共和党は抜け穴だと非難して来た。トランプ氏も2016年の選挙以来,短期仕事ビザ方式を主張して来た。では何故,今メリット・ベースなのか?

 それは同記事によれば,不法移民の働く産業は,余暇産業が9%,建設業が12%そして農業が16%だという。つまり来年の選挙でトランプ氏にとって重要な票田である農民が,ましてトランプ政権の対中貿易戦争のために食料を中国に売れなくて困っている(85億ドルもの特別補助金まで支払ったという)。そこで彼らが今後も安価な労働力を確保できる余地を残すことで来年の選挙を乗り切る狙いも,この移民改革にあるのではないかと同記事は主張している。

 またWashington Examinerが5月21日に配信した“Timing is perfect for Trump to use immigration to peel black voters from Democrats”によれば,トランプ氏に対する黒人の支持が,8%から15%に上がっているという。全米の黒人人口は全体の13%弱であるが,民主党の大統領候補は9割近くの彼らの票が取れないと当選できないと言われている。そしてトランプ氏は支持率8%でも(つまりヒラリーは黒人票を9割は取れた筈なのに)大統領選挙に勝っている。つまり黒人票だけを見ればトランプ氏が2020年に勝つ確率は2016年の単純計算で倍になっている。

 これは勿論,移民政策の影響が大きい。全米の黒人の54%は低賃金労働で自分達の競争相手になる移民が増えることに反対で,54%の黒人が年間の移民を今の4分の1の25万人に減らして欲しいと考えているという。

 このように今回の移民政策修正案は,共和党にも民主党にも反対される余地が表面上は大きくとも,トランプ氏の来年の再選には,とても望ましい政策なのである。カナダ形式の家族合流とメリット・ベースを組み合わせたりすれば民主党の一部の協力も得られるかも知れない。E-Verifyシステムへの何らかの見直しや高技能者確保等による産業界からの支持が高まれば,共和党の一部も反対できなくなるかもしれない。

 つまり今回の改革案は民主,共和の二大政党制を変貌させる可能性があるのである。これを考えついたのがクシュナー氏であるというのも重要である。

 私は拙著『救世主トランプー“世界の終末”は来るか?』の中でもミレニアム世代のクシュナー,イヴァンカ夫妻が,そのような方向で米国政治を変える可能性を指摘して来た。その予測が当たりつつあるのかも知れない。

 より重要なのは“誰が米国人か?”だろう。“労働こそが神への祈りである”というピューリタンの精神を守るものこそが「米国人」である。そのような「米国」を取り戻す。それがトランプ登場の真の意味だと考えれば,この改革は正にトランプ政治の真髄と言えるかも知れない。

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